公民権運動に係る捜査ですから白人は非協力的、黒人は白人の報復を恐れてこれも協力を拒みます。この四面楚歌のなかで、ふたりが如何に捜査を進めるか、というのがこの映画の見どころです。ウォードはワシントンのエリート、アンダーソンが現場からの叩き上げという設定で、この履歴も考え方も異なるふたりが、反発しながらも最後には手を握るという関係もサブストーリーです。ジーン・ハックマンの“ポパイ”も当然見どころですが、今回は麻薬シンジケート相手の強面だけではなく、「手帳片手に聞きまわっても何も得られない」と言って人情も使い分ける人情味あふれる“ポパイ”です。
捜査が進展しないことに苛立ったウォードは、ワシントンから100名の応援を呼び映画館を借りきって捜査に当たります。映画館から苦情が出ると、「買い取ってしまえ!」「いくらぐらいで?」「上限なしだ!」などという会話があってビックリします。3人の乗っていた車が沼から発見されると、軍隊を動員して沼を浚いますが、大統領命令なんですからそういうこともアリですね。
捜査とともに、黒人に対する放火や凄惨なリンチが描かれます。背後には有名なクー・クラックス・クランが存在し、米南部の人種差別の根の深さを思い知ります。
3人の活動家はスピード違反で逮捕され、釈放されますがその後ふっつりと姿を消しています。3人を逮捕した保安官補ベル(ブラッド・ドゥーリフ)が容疑者として浮かびますが、夫人(フランシス・マクドーマンド)のアリバイ証言で逮捕できません。アンダーソンに言わせると、南部の女は高校生の頃に結婚相手を探し、卒業して結婚し、その結婚を後悔する。この容疑者の妻は(名前が無いのでフランシスということにします)、人種差別を快く思わず、自分の夫が活動家の殺害に加わったことに罪悪感を持っています。フランシスはアンダーソンにつぶやきます、「7歳の時から、人種差別は聖書に書いてあると習った、第9章27節」という会話があり、南部人にとってはモラル以前のものなのでしょうか?このフランシスの登場で人種差別とウィレム・デフォーと ジーン・ハックマンの凸凹コンビの映画にぐっと深みが出てきます。
フランシスはアンダーソンの説得に応じ活動家の埋葬場所を教え、夫とKKKのメンバーのリンチにあって病院に収容されます。殺人、リンチ、放火と彼らの悪行に証拠がつかめないため悔しい思いをしてきた ウォードと アンダーソンは、フランシスのリンチでついに「堪忍袋の緒が切れ」ます...なるほどそう来ますか。
保安官補ベルを演じるブラッド・ドゥーリフは、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』のグリマ(ヘビの舌)、その奥さんが『ファーゴ』で妊娠中の警察官という変わった主人公を演じたフランシス・マクドーマンドだそうです。 これはお薦めです。
監督:アラン・パーカー
出演:ジーン・ハックマン ウィレム・デフォー フランシス・マクドーマンド ブラッド・ドゥーリフ