フレッドは書類を買い取れと、持ち主を地下駅に呼び出します。現れたのはエレナ(イザベル・アジャーニ)。たいてい、この書類の背景が映画のストーリーと絡んでくるのですが、一切関係がありません。フレッドは、エレナに会いたいために書類を盗んだようです。じゃぁフレッドとエレナの間には深い謂れがあるのかというと、それもなし。単に、パーティーを開く準備を手伝ってくれたのでフレッドを招待した、という関係。
要は、フレッドとエレナのふたりが地下鉄駅で出会えばいいわけで、そのためにカーチェイスの前段を作ったということです。パリ?の地下鉄駅、それもとんでもなく広大な地下駅を舞台に、暗闇に住む怪しげな青年と地上のお姫様のラブストーリーです。
この地下駅の住人は、ジャン=ピエール・ジュネ風にいうと、下水道で暮らすトログロ団(
デリカテッセン)ですね(笑。ドラムのスティックでいつもアチコチ叩いているドラマー(ジャン・レノ)、ローラースケートを履いた「ひったくり」のジャン=ルイ( ジャン=ユーグ・アングラード)、怪しげな花売り(リシャール・ボーランジェ)、黒人のボディビルダーなどなど。地上からドロップアウトして地下住人になったんでしょう。
この怪しい住人を取り締まるために、地下駅には派出所まであり、警部とバットマン、ロビン刑事(なんだそれ)が常駐しています。フレッドはこの地底の王国に紛れ込み、王国の住人となります。
エレナというのも、これがけっこう怪しい。若くて美人、本人も言ってますが、金持ちに拾われて結婚したようです。お姫様ではなく人妻。で映画は、トログロ団のフレッドと人妻エレナの道ならぬ恋となります。この金持ちの旦那が、エレナとフレッドの関係を知って、部下にフレッド殺しを命じます。ギャングの親分か何かですね。
最後に、フレッドは、エレナの旦那の放った殺し屋に殺されます。これ、「ロメオとジュリエット」ではないですか。かの名作を下敷きに、地上世界のお姫様と地下世界の王子様を登場させ、ロックに乗せて悲劇を描くリュック・ベッソン版「ロメオとジュリエット」...みたいな映画です。
《ロメオとジュリエット》 《ウェストサイド物語》 《サブウェイ》
ロメオ トニー フレッド ←地下駅に住むトログロ団?
ジュリエット マリア エレナ ←地上のギャング+ バットマン、ロビン刑事
というのが、リュック・ベッソンが描いた構図ではないかと思います。
で、かなりシュールであるとはいえますが、これはあまりお薦めの映画とはなりません。
冒頭のカーチェイスでフレッドを追いかけていたエレナの屋敷の使用人が、フレッドをつけ廻します。
監督:リュック・ベッソン
出演:クリストファー・ランバート イザベル・アジャーニ