マンガ版『風の谷のナウシカ』,赤塚憲雄『ナウシカ考』を読んで面白かったので、本書を借りてきました。「宮崎駿の妄想ノート『泥まみれの虎』」と「宮崎駿の雑想ノート『ハンスの帰還』」の2本のマンガに『実録・ナルヴァの戦い』などのエッセイ(筆者は宮崎ではない)と宮崎駿の談話「戦記世界の迷路をさまよう」が収められています。A4版128ページの大ブリな本です。

  『泥まみれの虎』の「虎」とは、ドイツ軍のディーガー戦車のこと。オットー・カリウスの戦記『ディーガー戦車隊』をもとに、ドイツ軍の戦車長カリウス少尉が、エストニアのナルヴァでソ連軍と戦った「戦車戦」を描いています。『ハンスの帰還』は四号戦車に乗って東部戦線から故郷に還るドイツ兵ハンスを描いたものです。なんと、カリウス少尉を始め登場人物は全員「豚」、『紅の豚』です。戦争の生々しさを緩和したかったのかどうか。宮崎は巻頭の「生涯における、戦車シーズンは終わった...」でこう語っています、

 たとえば、空薬莢にオシッコをして、たまったら捨てるみたいなことが書いてあって、それだけを読むとひとつのエピソードに過ぎないないけれど、連日それをやらなきゃいけないんですからね。・・・そういうことの連続のなかに戦闘ってのは混じっている...
 どんな砲撃を受けようと、どんな激戦になろうと、あるいは延々と待っていようと、オシッコはし続け、メシは食い続けなきゃいけないわけですよ。

 戦争も又日常の延長であり人間臭い生活である、ということです。「だからどうの」などと宮崎は言いません。宮崎の興味は、1949年に18歳でドイツ軍に入隊し、少尉となって戦車部隊の小隊長としてソ連軍と戦ったオットー・カリウスと、カリウスが乗ったディーガー戦車です。

 宮崎は「生涯における、戦車シーズンは終わった...」(「泥まみれの虎」と「ハンスの帰還」の)両方がうまくいかない理由が「戦車」にある、と書いています。兵士を「豚」に見立て、戦闘をユーモアたっぷりに描いた「泥まみれの虎」は、作者の戦車愛もあってそれなりに面白いです。「うまくいかなかった」のは、戦車ではなく、「ナルヴァの戦い」にこだわったため、いちばん興味があったのは、オットー・カリウスのあのへこたれない精神というのはいったいなんだったろうというその「興味」が十分に描かれなかったことだと思います。その興味をストーリーに載せることができず、ト書き(説明)が多いのもそのせいです。1994年の作品ですから、『ナウシカ』を脱稿して創造力を使い切ったのかも知れません。
 マンガに慣れないので、けっこう読み辛いです。