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赤坂憲雄 ナウシカ考 風の谷の黙示録① (2019岩波書店) [日記 (2021)]

ナウシカ考 風の谷の黙示録  宮崎駿のアニメは、最初に観たのが『トトロ』で、ジブリはトトロから始まると誤解していました。公開順に並べると、風の谷のナウシカ(1984)、→天空の城ラピュタ(1986)→トトロ(1988)→魔女の宅急便(1989)→紅の豚(1992)→もののけ姫(1997)→千と千尋の神隠し(2001)となり、『ナウシカ』が最初です。
 『ナウシカ』はアニメ版(1984)とコミック版(1994)があり、コミックを読んで驚いたのですがアニメとは全くの別物です。処女作に作家のすべてがあるという伝でゆけば、コミック版『ナウシカ』に宮崎アニメのエッセンスが詰まっているのかもし知れません。ナウシカは巨神兵にオーマ(エフタル語で無垢)という「名前」を与えナウシカは巨神兵の母となります。『千と千尋』で、千尋は湯ババから名前を取り上げられ「千」という名前を与えられて湯ババの支配下に入ります。『もののけ姫』で、ものけ姫の対抗軸「エボシ御前」は火の象徴「たたら場」で製造した石火矢を使います。

 1982~1994年と書き継がれたコミック版『ナウシカ』を読んでその構造はだいたい分かったのですが、前々から気になっていた解説本?『ナウシカ考 風の谷の黙示録』を読んでみました。著者は、東北学を提唱したこ民俗学者のようです。
 本書は、第一章:西域幻想、第二章:風の谷、第三章:腐海、第四章:黙示録、終章:宮崎駿の詩学へ、から成り立っています。壮大な「黙示録」ナウシカ世界が語られるのは第三、第四章です。
 マンガの書評というのは、『ナウシカ』の「絵」がイメージ出来ないとけっこう読み辛いです、この辺りが文字の本の書評と違うところです。

森の人
 人類はプロメテウスの火を獲得し使いこなすことで文明を築きます。ナウシカの世界は、「火の七日間」と呼ばれる最終戦争で文明が滅んだ後の世界です。『ナウシカ』は、この火の両義性で成り立っています。たとえば、

水と火をめぐる、呼びかけの決まり文句が三つの場面に姿を見せている。たとえば、土鬼の兵士たちに向かって、アスベルが右手を挙げながら、「火と水に調和を敵意はな い 」と呼びかけている。

 森の人は、「蟲使い」とともにアニメは登場しないキャラクターで、瘴気でマスク無しでは5分と生きられない腐海で暮らす種族です。 火を捨て人界をきらい、蟲の腸をまとい卵を食し体液を泡として腐海の奥深くに住む不思議な人々。最も高貴な血の一族であり蟲使いの祖だと言います。高貴な森の人、穢の民・蟲使いが表裏であるところが面白いです。蟲使いは、自分達穢の民の解放者としてナウシカに付き従いますが、森の人もナウシカを同類、この終末世界の救済者と見なして深く関わってきます。

セルム:ナウシカ 私と一緒に森へ来てくれませんか
 私達は森と共に生きる道を選んだ一族です
 あなたは私達と心を同じくする人だ
 私と共に生きて下さい

ナウシカ:ありがとう とてもうれしい
 でも あなたは生命の流れの中に身をおいておられます
 私はひとつひとつの生命とかかわってしまう…
 私はこちらの世界の人達を愛しすぎているのです
 人間の汚した たそがれの世界で 私は生きていきます(コミック6-97)

森の人セルムの恋の告白です。ナウシカは、私は森の人の同類ではない「こちらの世界」の住人だと申し出を拒絶します。『ナウシカ』で唯一の「恋」のシーンです。
 ナウシカは、ガンシップに乗って爆弾を投下し、火を吐く最終兵器・巨神兵を使い、土鬼の皇兄に、「結局はお前も火を使うのか」と皮肉られています。森の人は、祖を同じくするという「蟲使い」とセットで捉えたほうがよさそうです。では蟲使いとは何者か?、続きます

タグ:読書
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