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スパイ・ゾルゲ(2003年 日) [日記(2008)]


スパイ・ゾルゲ

スパイ・ゾルゲ

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • メディア: DVD


 『ゾルゲ 引き裂かれたスパイ』が面白かったので、映画の原作ではないのですがDVDも観てみました。篠田正浩の引退記念?というのも気になります。
 有名なゾルゲ事件を描いた3時間を越える大作です。ドイツ人でソ連のスパイであるリヒャルト・ゾルゲと彼に協力した尾崎秀実を据え、太平洋戦争に突入してゆく昭和という時代を背景に、国家と個人の関係とは何かという主題を描いています。この主題ですが、大きすぎて描き切れていない様に思われます。最後に『ベルリンの壁』の崩壊の映像が流れジョン・レノンの『イマジン』の歌詞がかぶることで、それと分かる訳です。

 ヒトラーは1941年にソ連に侵攻を開始します。一方、ソ連は満州において日本とも緊張状態にあります。日本は独伊と三国同盟を結んでいるため、ドイツとの開戦は満州での日本との開戦を意味します。ソ連は東ヨーロッパのドイツ、満州の日本との両面での戦争を強いられるわけで、戦力を二分された苦しい戦いが予想されます。
 ゾルゲは、尾崎から得た日本の南進政策及び石油備蓄状況の情報を得、満州での日ソ戦は無いという情報を送り、ソ連は対独戦に集中した結果独ソ戦に勝利します。スパイの諜報活動が世界史を動かした希有の例であると云うのが定説?です。ゾルゲと尾崎は日本の官憲に逮捕され処刑されます。ゾルゲはこの功績で1964年に「ソ連邦英雄勲章」を与えられますが、尾崎秀実の評価はどうなんでしょう。戦後、書簡集が発刊されベストセラーにはなっていますが。
 ふたりの男が己の信念に基づいて、それぞれの祖国を裏切る行動に出た、それが『ゾルゲ事件』なんでしょう。(ゾルゲはソ連のアゼルバイジャンで生まれていますが、幼い頃にベルリンに移住していますし、ハンブルグ大学に学び第1次世界大戦ではドイツへとして戦っていますから、やはりドイツ人でしょう。)

 いずれにしろ、イデオロギーと祖国が生々しい幻想として人々の心に在った時代の物語です。

 映画は、アグネス・スメドレーの仲立ちで二人が出会う1930年の上海から、事件発覚の1941年までを扱い、ゾルゲのドイツ大使館への浸透、尾崎と宮城与徳の協力を昭和の政治的情況を背景にそつ無く描いています。ただ、予備知識無しにこの情況が把握できるかというと?です。上海の描写も。ゾルゲ、尾崎、スメドレーの交流とともに日本の中国侵略状況が描かれています。2。26事件に象徴される国内の閉塞感、日米の緊張関係と経済制裁により太平洋戦争に傾斜してゆく姿も描かれています。が、映画としては『解説』的でドラマとしては説得力に欠けるように思われます。

 ではゾルゲと尾崎にドラマがあるかと云うと、こちらも?です。ゾルゲはスパイ活動の一方、ドイツ大使館駐在武官の婦人と不倫を重ねる一方、クラブのホステスと関係を持ちます。この辺りも事実なのでしょうが、ストーリーの中では中途半端です。ゾルゲを演じるイアン・グレンが結構存在感のある演技で見せてくれるだけに残念です。一方尾崎秀実ですが、こちらは絵に描いたような品行方正な新聞記者で、節のために祖国を売る様な行動に走る人物には見えません。ゾルゲに協力する必然と情熱が見えてこないのですが。まかり間違ったら極刑ですから、この辺りを十分に描かないとドラマとしては成り立たないと思うのですが如何なものなのでしょう。尾崎を演じる本木雅弘がどうのと云う以前の問題ではないかと。女優陣も葉月里緒菜、小雪、夏川結衣と有名どころを揃えていますが、女性不在の映画の様な気がします。全編の1/4が英語であり、この辺りもハンディーかなと思います。
 何だかんだと文句を書きましたが、個人的には結構楽しみました。戦争前の昭和の風景描写がすばらしいです。子供が生まれた知らせを受け、自室でオーソレミオを歌うゾルゲのロングショットの背景に、(TVアンテナの無い)昭和の東京の甍の波が映し出される映像は美しいです。昭和ノスタルジアです。

 Amazonでの評価は低いです。誰にでもお薦めできる映画ではありませんが、時代背景が理解できる方は『それなりに』楽しめる映画です。 →☆☆☆(☆)でしょうか?

原作・製作・監督:篠田正浩
脚  本:篠田正浩・ロバート・マンディ
音  楽: 池辺晋一郎
キャスト
ゾルゲ:イアン・グレン
尾崎秀美:本木雅弘
三宅華子:葉月里緒菜
宮城与徳:永澤俊矢
特高T :上川隆也
山崎淑子:小雪
尾崎英子:夏川結衣

映画の重要な小道具として、クラウゼンが使う無線機があります。少し考察してみました。
映画『スパイ・ゾルゲ』の無線機 (1)
映画『スパイ・ゾルゲ』の無線機 (2)
タグ:ゾルゲ
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