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R・F・ジョンストン 紫禁城の黄昏(上) [日記(2008)]


紫禁城の黄昏―完訳 (上)

紫禁城の黄昏―完訳 (上)

  • 作者: 中山 理
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 単行本


 1919年~1930年、皇帝・溥儀の家庭教師を務めたR・F・ジョンストンによる清朝末期の中国の政治(=紫禁城の宮廷)を扱った1934年刊行のノンフィクションです。どうでもいいですが、『ラストエンペラー』ではジョンストンをピーター・オトゥールが演じています。
ここで書いたように、ノンフィクションを楽しみながら『「東京裁判」と「岩波文庫」が封殺した歴史の真実』まで探求できるという二重の楽しみまで期待できそうな本です。そういう視点で読むと興味が深まるかもしれません。 本書の記述は1898年から始まっています。ジョンストンが紫禁城に来たのは1919年で、著者の見聞記録は第11章(1919年)から始まっていますから、岩波文庫版が原書の第1章から第10章までを『主観的な色彩の強い前史的部分』として省いたことは、それほど筋が通っていないわけではありません。『中華人民共和国の国益、あるいは建前に反しないようにという配慮から、重要部分を勝手に削除』したと云う(渡部昇一のまえがき)のはちょっと穿ちすぎだと思うのですが、こういった『資料』とも言える書籍の一部を削って抄訳する岩波の方針も如何なものでしょう。ジョンストンが外交官として香港に上陸したのは1898年ですから、英国外交官が分析するシナ事情として素直に読めばどうなんでしょう。10章までを批判的に読む能力はありませんが、普通の読者が11章以下を読む上での予備知識としては十分意味があります。ジョンストンの中国近代史の分析は、非教科書的で面白いです。何が非教科書的かと云うと、西太后=珍妃を井戸に投げ込んだ悪役、保守主義者で専制君主?。孫文=中華民国の建国者で革命家、思想家。辛亥革命=中国が近代化を果たした民主主義革命。なんて云う常識をいともあっさりと覆してくれます。

 例えば、西太后の専制をその資質だけによるものではなく、中国固有の『孝』の概念を援用して分析し(西太后の事跡を肯定しているのではない)、『シナ(中華、中国)』と『清王朝』を厳格に使い分け、中国には征服王朝は(清は満州族の征服王朝)存在してもシナと云う国家は存在しなかった、というジョンストンの『主観』はなかなか説得力があります。

『日本は、1904年から1905年、満州本土を戦場とした日露戦争で勝利した後、その戦争でロシアから勝ち取った権益や特権は保持したものの、(それらの権益や特権に従属する)満州の東三省は、その領土をロシアにもぎ取られた政府の手に返してやったのである。いうまでもなく満州王朝の政府である。』(105頁)
この辺りが読む人によってはカチンと来るのでしょうね。

もうひとつ、長いですが引用します、

『大勢のシナの人々はすぐに、革命主義者たちがでっち上げた反満州主義スローガンに飛びついたけれども、彼らは自分たちが何を行い、何を言っているかについて、何の明確な概念も抱いていなかったのである。まるでオウムのように「満州人を打ち倒せ」と叫ぶことを憶えただけだ。』

『ちょうど、それ以来、無数の学生やその他の人々が「資本主義、帝国主義、英国、日本を打ち倒せ、<不平等条約>をぶっつぶせ!」と叫んだり、流行の流儀や時の急務に応じて、あの特定の将軍をやっつけろだとか、この政治家を引きずり下ろせだとか、喚きたてることだけを覚えたように。


『1911年、数え切れないほどのシナの人々が革命という病原菌に感染し、自分たちの身辺にどんなことが起こっているのかさえはっきり分からないまま、突如として狂暴な反満州主義者、反帝国主義者に変貌したのである。』(いずれも163頁)
 革命と云うものの本質を喝破しています。面白いのは、この現象は世界共通のものだから英国人は違うと自惚れるな、と釘をさしている辺りはジョンストンの面目如実でしょうか。

 10章迄を読んで感じるのは、シナの君主制から共和制への変遷(辛亥革命)を、イデオロギーからは遠い『権力闘争』と見るジョンストンの冷徹な政治力学の視点です。その視点の中心に、西欧の論理では解明できないシナの文化と民族性の(非西欧的な意味での)特殊性を据えていることでしょう。後者は32年にわたりシナに駐在し、溥儀の家庭教師として紫禁城にあって王朝と民族を内側から体験した著者ならではの分析に依るもので、説得力に富みます。

さて、次は本題の11章からです。

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