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映画 愛を読むひと(2008年英独) [日記(2010)]

愛を読むひと (完全無修正版) 〔初回限定:美麗スリーブケース付〕 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • メディア: DVD
 

 原題はThe Reader。『めぐりあう時間たち』のスティーブン・ダルドリー監督作品です。『めぐりあう時間たち』同様、静かに流れる時間のなかで、愛とは、罪とは何かという問いが静かに進行します。

 1958年、15歳のマイケルは36歳のハンナと出会い、ふたりの情事が始まります。36歳のハンナが15歳のマイケルを誘惑したのですから、情事と呼んでいいでしょう。15歳のマイケルにとってハンナは最初の女性であり、錯覚であったとしてもそれは恋です。
 ふたりの情事が変わっているのは、情事の前または後にマイケルがハンナに本を読んでやることです。情事から始まったふたりの関係は、自転車旅行で親密度を増しますが、ある日突然ハンナはマイケルの前から姿を消します。ハンナの職業は市電の車掌で、その勤務ぶりが認められ、事務への異動の内示があったことがその原因なのですが、これは観客のみに知らされ、マイケルには知らされていません。マイケルの恋は一夏で終わりますが、この一夏の経験が彼に人生を大きな影を落とすこととなります。
ここまでが第1章です。以下ネタバレです、見る前にはお読みにならないほうがいいと思います。

 マイケルは法学部の学生として傍聴した裁判の法廷で、ナチの戦争犯罪の被告ハンナに再会します(ハンナは気付いていませんが)。ハンナは、当時彼女自身が書いたとされる文書を証拠に、300人の囚人(ユダヤ人)を見殺しにしたナチの主犯として無期懲役の判決を受けます。実はハンナは文盲で、報告書を書くことはできなかったわけです。文盲であることを主張すれば刑期は4年で済むのですが、ハンナは文盲を隠して無期の判決に甘んじます。この時マイケルはハンナが本を朗読させた理由が分かり、ハンナが『文盲』だと気付くのですが、彼は行動を起こしません。弁護側の証人として立てばハンナを救う事が出来た筈なのですが、彼は悩むだけで何もしません。ハンナの意思を尊重することがハンナへの愛なのでしょうか。その後、ハンナに面会しようと刑務所まで行きますが、結局途中で引き返しますね。大学の寮に帰ったその夜、それまで自制していた同級生を抱きます(どうもこの同級生とその後結婚して離婚しているようです)。ハンナ(あるいは幻想?)との決別です。

 ハンナは、何故文盲であることを隠したのか?無期懲役と引き替えにするほどの秘密であったのか?
 それを知ってマイケルは、何故彼女を弁護しなかったのか?法律を学マイケルは、目の前の冤罪?を看過したことになる。

これが第2章の投げかけた謎です。

 第3章です。マイケルは1958年当時ハンナに読んで聞かせた本をテープに吹き込み、刑務所の彼女の元に送ります。これがきっかけでハンナは字を憶え、マイケルに手紙を書きます。出所の知らせを受けたマイケルは、ハンナに会いに行き、職場と住まいを用意し彼女を迎えることを伝えます。マイケルがハンナを迎えに行った日、彼女は自殺して果てます。

マイケルは何故テープを送り続けたのか?
マイケルは何故ハンナに手紙を書かなかったのか?
ハンナは何故自殺したのか?

 マイケルは過去の甘い思い出と真実を明らかに出来なかった自責のない交ぜになった動機で朗読のテープを送り、同じ理由で返事を書かなかったのでしょう。ハンナの出所を知らせてきた刑務官の電話も、最後は刑務所を訪問しますが、最初は素気なく切っています。男の身勝手さと揺れる思いが透けて見えるようです。

 ハンナは何故自殺したのでしょう。マイケルが朗読を吹き込みハンナにテープを送り続け、ハンナはそのテープを聞いているかぎり、ふたりは1958年のハンナであり15歳のマイケルです。出所し、マイケルの庇護のもとでの新たな生活は、ハンナとマイケルの新たな関係が生まれるということです。ハンナは新たな関係を拒絶し、過去に生きる決意をしたのでしょうか?

 この映画は、時代に翻弄されたハンナという女性がつかんだ一生に一度の愛を描き、たった一瞬輝いた生を永遠に閉じこめた女性を描いています。この手の映画では、男は常に従属物に過ぎません。

 監督は『めぐりあう時間たち』のスティーブン・ダルドリー。静かな時間の流れのなかで人間を見つめる確かな構成は両方に共通しています。音楽もピアノの旋律の控えめなリフレインで『めぐりあう時間たち』に似ています。
 ケイト・ウィンスレットは『タイタニック』で有名になた女優ですね。昔ヴィデオで見たことはあるのですが、カワイイだけの女優から見事に脱皮しているようです。『めぐりあう時間たち』ではニコール・キッドマンが、『愛を読むひと』ではケイト・ウィンスレットがアカデミー賞・主演女優賞を獲っていますが、女優の持ち味を引き出す監督の力なんでしょうか。
 レイフ・ファインズは『シンドラーのリスト』『イングリッシュ・ペイシェント』、ブルーノ・ガンツはなんと『ヒトラー ~最期の12日間~』でヒトラーを演じていたんですねぇ、知らなかった。

 監督:スティーブン・ダルドリー
 キャスト:
 ケイト・ウィンスレット
 レイフ・ファインズ
 ダフィット・クロス
 ブルーノ・ガンツ
 

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Betty

スティーブン・ダルドリー監督は過去3作映画を撮っているのですがすべてオスカーでノミネートされ、主演した女優が主演女優賞を受賞しているのはすごいですよね。
役者さんへは、あまり指示を出さないような事を聞いたことがあります。気持ちの持って行かせ方や、環境作りが上手なのでしょうね。
今後もチェックしたい監督ですね☆

わたしは原作も読んだのですが、マイケルは友人と水泳で遊んでいる時に感じた「内緒の関係」が生涯で強い心のシコリとして書かれています。
「自分は友人へ、こんなに愛しているのに彼女を紹介しなかった。出来なかった。」罪の意識を感じるのです。ハンナが突然消えた時も自分を責めています。
ハンナはまったく違う理由なのですけどね・・・
そして、大学生になりハンナの事情を理解します。「裏切られた」ような愛情の裏返し憎悪感を感じてしまうのです。

原作も映画でも一人称で描かれているのでハンナの内面は一切触れていないのでこちらでの想像の世界になってしまうのですが、そのハンナの心情を画面で上手に描いている部分は感動しました。

ハンナは社会へ出る事・マイケルとの関係すべてを諦めてしまったのだと感じました。
文章が読めるようになり手紙も書けるようになった事で「生きる事」を感じていたハンナですが唯一の外の世界の人物マイケルの自分に対する扱いが、社会の人すべての感情だと思ったのだと思います。
マイケルが会いに行く・行かないと、どちらの行動を取っても同じことだったと思います。
返事の来ない数年間で生きることを諦めてしまった。
とどめは刑務所の食堂のシーンですね。。。。
by Betty (2010-01-28 11:50) 

べっちゃん

コメントありがとうございます。原作、読んでみます。原作と映画は別物と考えたほうがいいのでしょう。ケイト・ウィンスレットはなかなかの名演技でしたね。
by べっちゃん (2010-01-28 17:43) 

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