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BSシネマ 映画 懺悔(1984ソ) [日記(2012)]

懺悔 [DVD]
 NHKのいいところは、こういう映画をさりげなく放映してくれるところです。テオ・アンゲロブロスとかイングマール・ベルイマンの名前もNHKで知りました。

 ここによると、「懺悔」は1984年に製作されたもの数年間上映禁止となり、1987年に解禁となってソ連国内でヒット?したようです。ゴルバチョフの就任が1985年ですから、1984年は未だブレジネフの体制の残滓の時代で、こういう体制批判の映画は上映できなかったんでしょう。

 オバサンのケーキ作りで幕が開き、その(たぶん)旦那がいい人が亡くなったと嘆きます。信頼できる友人だ、心の師さ、ヴァルラムの死で運が尽きた、と旦那。妻は、(皮肉っぽく)知り合えただけで幸せよ、とグルジアの地方都市の市長ヴァルラム・アラヴィゼの死を報じる新聞をじっと見つめます。見終わって分かることですが、なかなか凝縮された幕開きです。
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 チョビ髭ヴァルラム                  黒服にオープンカー
 このヴァルラムの遺体が掘り返され、3度までも息子の家の庭で発見されると云う怪事件が起きて、映画はミステリー風にスタート。犯人は冒頭で登場したケティで、ヴァルラムを「安らかに眠らせない」ために遺体を掘り返したと自供します。裁判によって、ケティとヴァルラムの過去が次第に明らかになってきます。
 痴情のもつれか?と思うのはゲスの勘ぐりで、ケティとヴァルラムの出会いはケティが8歳の頃、ヴァルラムの市長就任の頃に遡ります。映画の描く時代を1980年頃とすると、ふたりの出会いはケティの年齢から推定して45年前後、1930年~40年頃と考えられます。計画経済の失敗による大飢饉、粛清、強制収容所とソ連の暗黒時代に、グルジアの市長と8歳の少女が出会い、40数年後に8歳の少女は亡くなった市長の墓を掘り返すという事件を起こしたわけです...。
 
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オペラ歌手 ヴァルラム              ヴァルラムの演説、左下に絞首台
 
 体制批判の表現は、たとえばソルジェニーツィンの様に体制を正面から捉えたリアリズムの形を取るか、ジョージ・オーウェルやゴーゴリの様に寓話、神話の形をとりますが、「懺悔」は後者で、多分にユーモアを交えた寓話、神話的表現に満ちています。
 物語の主題はスターリン体制化での表現芸術の圧殺、粛清などのソ連の暗部ですが、その主役たるヴァルラムは何処か憎めないキャラクターとして描かれています。逆に、このキャラクターが映画を引っ張っています。ヒトラーに似せたちょび髭、ムッソリーニの「黒シャツ隊」を思わせる黒シャツに黒のブーツ、革のサスペンダ(あの鼻眼鏡は?)で登場し、部下を従えてオペラ?の一節を独唱し、オープンカーを乗り回します。完全な道化です。オープンカーの横を中世の鎧をまとった騎士が走り回り、体制に好ましからざる人物を逮捕し、正義の女神は目隠しをされているいう暗喩が随所に挟み込まれています。
 
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目隠しをされた正義の女神             中世の騎士が逮捕に来る
 
 ラストで、冒頭で描かれたケティと夫の会話のシーンに戻ります。夫は、あんなに純粋で優しい人はほかにはいない、人の幸せばかり考えていたと相変わらずヴァルラムの死を残念がっています。その時、窓の外から老婆が道を尋ねます。この道を行くと教会に出ます?と。教会には行けないわよ。そうなの、そんな道、意味ないわね、教会に行けない道は必要ないわ。という会話があり、老婆が道を戻ってゆくロングショットで幕。
 「教会に行けない道は必要ないわ」、この一言がすべてを語っています。

 冒頭とラストのシーンは同じ時間帯に在ります。ケティも夫も同じ服を着ていますから、このふたつのシーンはつながっています。ケティはこの冒頭のシーンでヴァルラムの死を知り、犯行を決意したと思っていました。しかし、冒頭とラストのシーンが繋がっているとすると、老婆を見送って後ヴァルラムを許せずに死体を掘り返し、捕まって裁判を受けたことになります。ラストシーンでは、ケティの犯罪(この映画の主題)は未だ始まっていないことになります。それとも、老婆の一言でやはりヴァルラムは許せないと思ったわけでしょうか?。それとも、ケティの犯罪と一連の物語は「邯鄲の夢」だったのでしょうか?それにしても、ケティの老婆を見送る眼差しは優しさに満ちています。どうもそのようです。

 なかなか面白い映画です。(anazonにもdiscasにもあるようですが)NHKで放映されるようなら是非、お薦めです。
 
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去ってゆく老婆                    見送るケティ
 
監督:テンギズ・アブラゼ
出演:アフタンディル・マハラゼ イア・ニニゼ メラブ・ニニゼ

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