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映画 許されざる者(2013日) [日記(2016)]

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【リメイク】
 クリント・イーストウッドの同名映画(1992)のリメイクです。リメイクというと大抵オリジナルより劣るわけですが、舞台を明治初年の北海道に設定し、長州、薩摩、幕臣を持ってくると、また異なった趣があります。
 北海道の原野で隠れるように暮らす元幕軍の十兵衛が、懸賞金のために人を殺し、警察所長を殺して仲間の仇を打つと云うストーリーはオリジナル通りです。同僚を傷つけられた娼婦が懸賞金を出すという設定も、オリジナルと同じです。明治維新、幕軍残党、アイヌという辺りがリメイクの特徴です。

【朝敵】
 クリント・イーストウッドが演じた元ギャングの主人公マニーは、幕軍残党狩りで新政府軍と苛烈な戦いを演じた十兵衛に翻案されます。戦いで女子供まで殺した冷酷な十兵衛も、亡くなったアイヌの妻の感化によって今では実直な開拓農夫となっています。
 旧幕府軍の残党が蝦夷地で開拓民となる設定は、榎本武揚等幕府軍が函館五稜郭で新政府軍と戦ったこと、朝敵会津藩が南部に追いやられその一部が蝦夷に渡った史実からの発想でしょう。
北海道の原野を開拓するわけですから、過酷な生活で、十兵衛は妻を亡くしふたりの子供を抱え、冷害で生活の目処が立たないなか旧幕軍の同僚馬場 (柄本明、ローガンに相当)の賞金稼ぎの話に乗るわけです。
 この十兵衛の履歴については映画では多くは描かれません。例えば、幕軍の将校大鳥圭介は、江戸開城の後部下を引き連れて脱走を図り、後榎本武揚と合流して五稜郭で新政府軍と戦っています。この大鳥隊の歩兵は下級後家人が多く含まれているようで、そのひとりと考えても、土方歳三も大鳥圭介と行動をともにしていますから、あるいは新撰組隊士と考えても面白いです。
 原作のジーン・ハックマン同様に警察所長(佐藤浩市)の存在が強烈です。後の展開から想像すると、維新後に新政府仕え北海道に飛ばされて権力の末端を担っている旧幕臣、諸藩の藩士のようにも思われます。

【娼婦】
 娼婦に付いても、原作通りで、小池栄子(原作のアリスに相当)の演技と相まってしっかり描かれます。ナニが小さいと笑われたため牧童が娼婦の顔を切り付けた事件が事の発端。この事件を警察所長(佐藤浩市、原作ではジーン・ハックマン)は馬3頭で無罪放免します。娼婦は馬3頭の値打ちか!と怒った娼婦たちは、牧童に賞金をかけます。原作通りですが、北海道に流れ着いた侘しい娼婦達の怒り恨みは、原作以上にリアルです。

【アイヌ】
 原作ではマニーの相棒ローガン(モーガン・フリーマン)の妻が先住民ですから、これを取り入れたわけでしょう。賞金稼ぎに加わる沢田(柳楽優弥、原作のキッドに相当)もまたアイヌと和人の混血という設定です(十兵衛の亡き妻もアイヌ)。元幕軍、アイヌ、娼婦という抑圧された人々を持ってきた割りには、アイヌという存在は描き切れていません。

【薩長】
 十兵衛が幕軍の残党、朝敵ですから、薩長という時代の強者が登場します。原作のイングリッシュ・ボブに相当する北大路(國村隼)です。北大路は長州の元勤王の志士。元勤王の志士とは云え、賞金首を狙って北海道の場末まで来るわけですから、新政府の落ちこぼれなんでしょう。北大路は、薩摩のこれも落ちこぼれを一刀のもとに退けます。

 時代の強者、長州の北大路は警察署長に叩き出されますから、この映画は、元幕軍、アイヌ、娼婦という時代の敗者の側から描かれた映画と言えます。その辺りはオリジナルより濃厚です。舞台を明治維新の北海道にもってきたのですから、もっとオリジナルを改編した方が (例えばアイヌの沢田にもうひとつストーリーを与えるとか)よかったようにも思えます。『七人の侍』→『荒野の七人』のリメイクよりこちらの方が良く出来ています。
 
監督:李相日
出演:渡辺謙 佐藤浩市 柄本明 柳楽優弥 忽那汐里 小池栄子 

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