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山田洋次 民子三部作 [日記(2018)]

 山田洋次には、倍賞千恵子を主人公とした「民子三部作」、『家族』(1970)、『故郷』(1972)、『遙かなる山の呼び声』(1980)があります。『家族』『故郷』は、高度成長が歪を露呈しだした1970年代はじめに故郷を追われる家族の物語です。『遙かなる』は、『家族』の移住先、北海道中標津町の牧場を舞台にした和製『シェーン』です。いずれもヒロインの名が民子、演じるのが倍賞千恵子という以上のつながりはありません。1977年の『幸福の黄色いハンカチ』は、『遙かなる』の後日譚とも言うべきものでしょう。
あの頃映画 「家族」 [DVD]

 風見精一(井川比佐志)は炭鉱の島、長崎県・伊王島での生活に見切りをつけ、酪農をするため妻民子(倍賞千恵子)、ふたりの子供、父源蔵(笠智衆)の一家5人で「新天地」北海道・中標津町を目指します。文字通り日本列島を西の端から東の果てまで日本列島を縦断するロードムービーです。一家で「新天地」を目指すロードムービーというと『怒りの葡萄』を連想しますが、『家族』にはこの映画の影響が濃厚です。
 『怒りの葡萄』は、故郷を捨て「乳と蜜の流れる約束の地」カリフォルニアを目指しますが、故郷を捨てた原因は1929年に始まる大不況です。風見一家を故郷を捨てさせたものは、地方に押し寄せる高度成長の波です。公開の1970年は大阪万博の年です。一家は旅の途中万博を垣間見ます。日本中が高度成長に浮かれ騒ぐ時、山田洋次はその陰で1970年版「出エジプト記」を作ったことになります。
 『怒りの葡萄』のラストで、一家を率いる長男ジョードは労働運動を目指し家族の元を離れます。父親と長女の死という大きな犠牲を払って北海道に着いた風見一家は、子牛の誕生に出会い、民子は新しい命を妊ります。わずか30年で、「出エジプト記」の映画はこうも違ってくるわけです。
あの頃映画 「故郷」 [DVD]

 山田洋次は、『家族』で描ききれなかったもの、高度成長の波が地方に及び故郷を捨てる過程を『故郷』で描きます。瀬戸内海の小島(広島県・倉橋島)で、20トンの石船で妻民子とともに石の運搬をする精一が、大型船の効率、経済性に押され、石船の仕事を捨て、尾道のドッグで働くため故郷を捨てる物語です。『家族』では、父親の笠智衆は中標津に着いてすぐ亡くなりますが、『故郷』では、家族に捨てられひとり島に残ることになります。
 精一は、時代の流れだ、大きいものには勝てないと言われ、石舟を廃業するわけですが、その「時代」と「大きいもの」は何なんだオレには分からないと呟きます。「時代」は「故郷」と「家族」を押し流して行きます。
あの頃映画 「遙かなる山の呼び声」 [DVD]

 『遙かなる』は『家族』『故郷』とは別の、高倉健の映画です。舞台は『家族』で一家がたどり着いた北海道・中標津。精一は小さな牧場を立ち上げ、精一が亡くなった後民子は幼い武志(吉岡秀隆)と牧場を切り盛りしています。その牧場に流れ者・耕作(高倉健)が現れ、民子を助け武志を父性でつつみます。つまり西部劇の『シェーン』、または、組長を殺されひとりで組を守る姉さんに助太刀をする花田秀次郎(昭和残侠伝)の世界です。

 殺人犯の耕作は捕まり列車で護送されますが、その車中で、民子は乗客のハナ肇との会話で耕作が出所するまで「待っている」と伝えます。その「待っている」を耕作の側から描いたのが『幸福の黄色いハンカチ』ということになります。

 今観るとそれほど感心する映画ではありませんが、1970,1972年に、家族と故郷の崩壊を描いたことは特筆に値しそうです。

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Lee

地味ですが日本人にとって重いテーマですね。うちの親も万博の頃実家を出て新居に移りました。80年頃はバブル前夜の小春日和という感じで自分の生きた時代が生々しくせまってきます。健さんは失われつつある古い日本の象徴なのでしょうか。
by Lee (2018-12-12 00:20) 

べっちゃん

個人的には、『幸せの黄色いハンカチ』以後、どの映画を見ても高倉健の後ろに任侠映画のヒーローをイメージしてしまいます。
by べっちゃん (2018-12-12 08:38) 

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