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キャロル・オコンネル クリスマスに少女は還る [日記(2008)]

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)未知の本は、解説を読んで買いますが、

読者のみなさんへ。まずこの拙文をさきにお読みください。

とあります。ここまで堂々と書くのはまれですね。アマゾンの評価が36通のうち35通が☆☆☆☆☆だと書いてありますし、おまけに『本書は類を絶した作品だ。緊密な構成のミステリという枠組みをとりながら、結末ではそれを逸脱し、なおかつその逸脱が必然であるような小説』とあり、これを書かれた荻原香さんという方は知りませんが、ひとつ騙されてみることにしました。 ニューヨーク州の田舎町で、クリスマスも近い12月にふたりの女の子が行方不明なるところからストーリーは始まります。10年前の同じ頃にも10歳の女の子が行方不明となり、クリスマスに死体で発見されるという事件があったのです。捜査をする田舎警察の警察官は10年前の被害者の双子の兄。これに小児性愛を専門とする女性の法心理学者や自閉症気味の少年、がらの悪いFBI捜査官、融通のきかない?精神科医、10年前の誘拐犯の神父(服役中)など多彩なキャラクターが加わり物語は展開します。この誘拐犯はどうも冤罪らしいのです。今回の誘拐犯は、10年前の誘拐犯と同一人物の可能性がにおわさますれ。ミステリーですから犯人は登場人物のひとりの筈で、この犯人探しも興味津々という訳です。
 女性法心理学者が実に魅力的です。登場からイカしています。クリーム色のシルクのブラウスに入った黒のロングスカート、深いスリットのからのぞくのはストキング無しの素足。彼女の顔たるや、右の頬には真っ赤な傷痕が走り唇の片側が上に向かって引きつれ、灰色の目は不自然なまでに左右に離れている、というものすごさです。化粧で顔の傷を隠そうとせず、反対にその唇に真っ赤な口紅を塗っているという挑戦的な容姿です。その彼女が、初対面の相手に発する最初の一言が

『こんにちは、うぬぼれ屋さん』

透明人間のように目立たない女の子が、何故こんな傷を負い、小児性愛を専門とする女性の法心理学者になったのか?この顔の傷もしっかり伏線となっています。

 魅力的な女性といえば、誘拐された少女サディー・グリーンの母親ベッカもそのひとりです。殺されたと考える捜査陣に我が子の無事を主張し、サディーがどんな子供であるか説明しませす。この説明が度肝を抜きます。フォークで自分の目を突き刺し、目玉を抉りぬくという奇抜なトリックを演じ、こう言います

『サディーがやるときは、このあと目玉を口に入れて、クチャクチャ噛むんですよーそこのところが、大詰めでね。・・・うちの子はこれまでずっと、子盗り鬼(誘拐犯)との遭遇に備えて訓練を重ねてきたんです。あの子は生きています!おわかりでしょ?・・・どうか本当のサディーを知って下さい。あの子はただの小さな未完成な人間じゃないんです。私が保証します。みなさんはあの子を愛さずにはいられなくなるは。』

この一見親ばかに見える母親の娘に対する信頼は、読んでいて気持ちがいいです。
B級ホラー映画の大ファンで、自宅にコレクションを持ち、自室に気味の悪いオブジェを飾るサディーって、いったいどんな子なんだ!サディーの登場を待ち望んで、ページをめくるスピードが一気に加速します。

(ネタバレしないように書きます)
 なんといっても、最高はサディーですね。その得意なキャラクターは冒頭から語られのですが、実際に登場するのは中盤からです。親友の美少女グウェンとともに誘拐されますが、誘拐犯にとってサディーはグウェンを呼び出すための道具に過ぎません。誘拐後は殺される運命にあったわけですが、どっこい犯人の裏をかいてしっかり生き延びます。犯人にけしかけるために猛犬(同じ部屋に監禁されています)をてなずけ、ホラー映画のクイズを出し合って恐怖を紛らわそうとします。(作者もB級ホラーのファンなのでしょうか?)傷を負ったグウェンを励まし、何とか犯人の魔手から逃れようとするサディーのいたわりは、二人が10歳の子供であることを考えるとけなげです。
これ以上はネタバレになるので書けません。あっと云うどんでん返しで『クリスマスに少女は還る』のです。

 最後の数ページで、ミステリーはファンタジーへと昇華し、クリスマスに少女は『還り』ます。

満足 →☆☆☆☆

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コメント 3

Betty

10年ほど前に読んだこの作品。内容は霞んでいましたが
この記事を読んで細かいことを思い出しました。
インパクトのある女性法心理学者と10歳のB級ホラーマニア・サディーの人物描写、最高ですよね。
ラストの展開など、すっかり忘れているので再度読みたくなりました^^
by Betty (2008-04-03 10:52) 

べっちゃん

 ラストが感動ものです、是非再読を。月読みフォーラムの『クリスマスのフロスト』は読んでいませんが、『夜のフロスト』 『フロスト日和』は昔読みました。フロストあの下品が魅力だったり。
by べっちゃん (2008-04-03 11:44) 

Betty

べっちゃん 様
是非☆『クリスマスのフロスト』お読みになってフォーラムへ
ご参加下さい(^-^)b
by Betty (2008-04-04 12:31) 

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