読書 マイクル・コナリー リンカーン弁護士 [日記(2010)]
コナリーといえばボッシュ・シリーズですが、本書は『我が心臓の痛み』と同じボッシュの登場しない、いわゆるノン・シリーズです。しかも新たなヒーローが登場します。刑事弁護士ミッキー・ハーラー。事務所が持てずに、運転手付きリンカーンを事務所代わりにロサンゼルス郡を縦横に駆け巡る『リンカーン弁護士』です。元妻が検事、もうひとりの元妻が彼のマネジメントをするという変わり種。クレジット番号の詐欺盗用事件の被告に、ロースクールを出た『合法的なペテン師』だと言われて傷ついたり、刑事弁護士をナマズに例え『人の不幸を金儲けの道具にしているゲス野郎』と自嘲したり、なかなか屈折した性格の持ち主です。
第1部『刑事調停』では、麻薬売人、売春婦、詐欺師などミッキーが扱う依頼人の弁護を通して、米国特有の『司法取引』という制度を知ることができます。日本では検事が告発求刑して弁護士が反論し、裁判官が判決を下しますが、アメリカでは、被告と検察が取引して量刑を決めることができます。自白や捜査の協力を代償に死刑のところを無期減刑したり、執行猶予へと減刑したりする取引が可能です。従って、刑事弁護士は交渉人としての一面を持っていることとなり、この制度が重要な伏線ともなり、この駆け引きが法廷描写では魅力ともなっています。
第2部『真実の無い世界』が本論です。ハーラーは殺人事件の容疑者となり、検事側の証人を尋問しながら、我が身にふりかかった濡れ衣を晴らし、同時に依頼者の無罪を勝ち取るという離れ業をやってのけます。この法廷シーンは本書のメインですね。コニー・フルブライトという愛煙家の女性判事が登場しますが、ハーラーとの舌戦も魅力的です。
さすがコナリーと思わせるのは、主人公のこうした性格設定や、弁護士と依頼人の関係に複雑なプロットを用意して、法廷ものをハードボイルドに仕上げたところでしょう(ネタバレしたいですが、やめときます)。当然の如く、09年の文春、このミスベスト10に入っています。
解説によると、映画化の予定があり(何と出版前に版権が売れている)、キャストまで決まっているようです。ハーラーを演じるのが『アミスタッド』でも弁護士ボールドウィンを演じたマシュー・マコノヒー、監督がトミー・リー・ジョーンズとのことです。『ブラッドワーク』が面白かったので期待できます。
リンカーン弁護士の続編が刊行されています。なんとボッシュも登場するらしい!
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