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横山秀夫 64 (ロクヨン) [日記(2013)]

64(ロクヨン)
 横山秀夫は数年前に『半落ち』という警察+人情モノを読んだだけです。2012年の「このミス」「週刊文春ミステリ」ともに第1位ということに釣られて読みましたが、面白かったです。
 D県警と云う架空の県警本部の広報官を主人公とした警察小説です。普通の小説であれば3冊は書けそうなプロットを1冊に詰め込み、プロットが相互に絡み合い二重三重の仕掛けでカタストロフィーに持ってゆくと云う凝った作りです。

1)広報官
 広報官と云う、ミステリにかつて登場したことのない人物を主人公にしています。犯罪捜査にはタッチしませんから、県警本部の身内及びマスコミとのネゴシエーションが主な仕事で、普通のビジネスマンに近い立場の警察官です。この広報官・三上に、刑事から左遷された元刑事という履歴を与え主人公に陰影を付けています。「匿名発表」に端を発した警察庁長官の取材拒否などマスコミと警察の駆け引き、誘拐事件に伴う報道協定など、普通の警察小説には無い側面が描かれます。

2)刑事部と警務部
 ミステリでは捜査1課など刑事が所属する刑事部が舞台となるわけですが、警察組織には人事、会計などを扱う管理部門・警務部という部署があります。広報官はこの警務部に属しています。現場を指揮する刑事部と官僚組織である警務部というのは、犬猿の仲と言わないまでも、反りが合わない関係にあり、刑事部出身の広報官が警務部で生きてゆく組織人としての「軋み」が『64』のひとつのテーマです。この辺りが世のお父さん方に支持される要因かもしれません。
 警務部を仕切る警務部長は本部長に次ぐ警察のno.2で、『64』ではキャリア官僚が握っています。一方、刑事部は刑事からの叩き上げノンキャリアの指定ポスト。当然本部長はキャリア官僚ですから、警務部vs.刑事部の構図は、中央(警察庁)vs.地方と云う対立の構図でもあります。

3)県警と警察庁
 本書によると、刑事部長に警察庁のキャリアが座っている府県警察は、全国で10警察ほどあるということになっています。本部長、警務部長がキャリア組ですから、刑事部長にまでキャリアが座ると、その警察組織は殆ど国家警察と云う見方も出来そうです。国が警察組織を使って国民を一元的に管理する「警察国家」という悪夢もありますが、『64』ではアンチ中央の最後の砦として「刑事部長」のポストが争われます。

4)父と娘
 主人公・三上は、16歳の娘が家出して行方不明という状況が設定されます。一方で、昭和64年に発生した少女誘拐殺人事件「64」があり、被害者の父親と三上の重なる部分で物語が展開します。娘に対する心の痛み、哀しみを踏みにじるかのように警察組織が動き、組織と誘拐犯にふたりの父親が立ち向かいます。

5)事件
 昭和64年に発生した誘拐殺人事件64、それをなぞるかのにように発生した新たな誘拐事件。かつて刑事として「64」に関わった三上は、今度は広報官としてこの新たな誘拐事件に関わります。ふたつの事件を重ねることで見えてきたものとは...。
 
 もう唸るしかありません。「このミス」「週刊文春ミステリ」ともに第1位は頷けます。

タグ:読書
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コメント 2

k_iga

横山秀夫は好きな作家の1人です。
人事による部署の異動とか、キャリアの都合に振り回される苦悩とか
会社員なら身につまされる部分も多いですね。
by k_iga (2013-02-16 23:13) 

べっちゃん

「64」、面白かったですね。最後まで緊張を持続させる手腕は並大抵の才能ではありませんね。
by べっちゃん (2013-02-17 10:05) 

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