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映画 黄金を抱いて跳べ(2012日) [日記(2013)]

黄金を抱いて翔べ  コレクターズ・エディション(2枚組)(初回限定版) [DVD]
 髙村薫は新刊が出ると欠かさず読んでいます。まぁファンです。髙村センセイは、最近はブンガクづいてドフトエフスキーなどを意識した小説を発表していますが、出発はミステリー作家。センセイのデビュー作『黄金を抱いて翔べ』が映画になったというので見てみました。監督は『パッチギ』の井筒和幸。

 髙村薫は、エッセイ集『半眼訥訥』の中で、『黄金を抱いて翔べ』は大阪の夏の暑さが主人公であると書いています。大阪の蒸すような暑さが主人公たちに妄想を植え付け、金塊強奪が計画され住友銀行本店?の地下金庫が襲われます。夏の暑さ云々は、犯行動機が不鮮明だと評されたことに対する作家なりの答えなんでしょうが、この辺りを大阪人の井筒和幸がどう描くのかも楽しみです。

 もうひとつ、先日7人の海賊が大阪の奉行所から金を強奪する「集団抗争現時代劇」『集団奉行所破り(1959)』というのを見ました。これがなかなか面白く、『黄金を抱いて跳べ』は、6人のプロフェッショナルが銀行の地下金庫を襲うという「集団抗争現代劇」でもあります。『集団奉行所破り』に大義名分はありましたが、「初めに金塊ありき。金塊は我々と共にありき。...」と言い放つ主人公のひとり北川に、大義名分はありません。
 1億円、500kgの金塊より紙幣のほうがかさ張らないと言う一味の幸田に、金はどんな時代になっても価値は変わらないと北川は言います。 この小説が発表された1990年はバブルの真っ最中です。黄金は、実体のない経済の狂騒に対する作者なりのアンチテーゼなんでしょう。

 大阪の夏の暑さが妄想を植えつけたのか、北川(浅野忠信)は昔の友人幸田(妻夫木聡)を誘い銀行強盗を計画します。実際の銀行強盗シーンは全体の3割ほどで、7割は犯行に至る男たちの奇妙な友情?が描かれます。派手なアクションに慣れた観客には退屈なシーンの連続ですが、髙村薫の描きたかったのはまさにこれです。左翼くずれのトラック運転手北川、北川に誘われ20年ぶりに大阪に来た幸田(合田と似てますねぇ・・・笑)、コンピューター技術者の野田(桐谷健太)、エレベーター・サービスマンのジイちゃん(西田敏行)、北川の弟で暴走族の春樹(溝端淳平)に元北朝鮮工作員のモモ(チャンミン)が加わり、大阪の下町に燻ぶる6人が黄金に向かって跳びます。

【モモ】
 (原作はもう忘れてしまったのですが)幸田とモモの関係がよく分かりません。幸田はモモとは地下鉄のホームと秋葉原で2回しか会っていませ。秋葉原でモモは工作機械を買い、その翌日首相官邸かどこかにロケット弾が打ち込まれているから犯人はお前だろうとか、幸田が引っ越したアパートの窓から川ひとつ隔ててモモのアパートが見えたり、どうも不自然なんですがまぁよしとしましょう。この元北朝鮮工作員はどうも諜報組織を裏切った様で、始末しに現れた兄を殺し北と公安から追われています。行き場の失ったモモは、爆破のエキスパートして北川のグループにリクルートされます。

【ジイちゃん】
 幸田は、5歳まで吹田に住んでおり、教会に放火して母親と大阪を離れたようです。幸田は、母親と神父の間に生まれた不義の子で、妻帯を禁じられている聖職者が罪を犯したわけです。5歳の幸田は教会に火を付け、神父は幸田の身代わりに放火犯として罪を負います。その後の幸田と母親について、映画では何も触れられていません。「人間のいない土地へ行きたい」という幸田に漂う陰は、この不義の子と実の父親に放火の罪を着せたことが尾を引いているのでしょう。
 最後に明かされますが、この“ジイちゃん”は実は神父であり、幸田の父親です。放火で服役し、出所後労働運動に身を投じ、後に組織を裏切って公安に情報を流すという過去を持っています。モモを公安に売り、自分を罰するように金塊強奪を見届けて銀行のエレベーター室で縊死します。
 残された聖書には、神父と幸田の母、5歳の幸田の3人が写った写真が挟まれ、幸田は真実を知ります。

【おたふく風邪】
 北川と幸田の会話におたふく風邪が出てきます。北川は1年前におたふく風邪にかかって子供が出来ない身体になったと冗談めかして言っています。幸田は産婦人科医院の前で偶然北川の妻と出会い、彼女は妊娠したこと、それを北川に告げていないことを恥ずかしそうに話します。お腹の子供は、不義の子であることがさりげなく描かれ、幸田と別れた直後、彼女は暴走車に轢かれて死にます。
 幸田の記憶として、母親は何度か登場します。幸田と母親は神父と別れて、大阪を離れたことは分かっていますが、現在まで20年間何処でどうやって暮らしてきたのかは一切触れられていません。幸田にとって母親は、懐かしい母親ではなく、神父と通じ不義の子を産んだ罪深い女性として記憶に刻まれているようです。
 幸田の母親と北側の妻、ストーリーにからむふたりの女性はいずれも不義を重ねた女性。そのひとりはお腹の子供共々交通事故で(作者によって)「殺され」ます。髙村薫は同性である女性を不義でバッサリと切り捨て、犯罪に走る男たちのストイックなリリシズムを描くわけです。
 
 そうした過去を背負い、現実に直面する6人が黄金に向かって跳びますが、「半眼訥訥」の中で作者の言う、
(大阪は)無秩序と図々しさと無神経の、胃袋みたいな街・・・そこで起こる事件なら、そこにふさわしいやり方というものがあって当然だ。押し込み方も、逃げ方も、東京と大阪ではやり方が違う。無造作で、不細工だが奇抜で、どうしようもなく短絡的で衝動的だが、痛快無比の大団円。
とはチョット違うような...。幸田やモモの「ストイックなリリシズム」が暗くて晦渋、地下金庫からの金塊強奪もごく地味です。
 浅野忠信は『モンゴル』のチンギス・ハーンのイメージが強いので、私にとってはミスキャスト。妻夫木聡、桐谷健太も溝端淳平も初めてで、ましてチャンミンにおいておやです。

 で、お薦めかというと、「タカムラー」の方、原作を読んだ方にはお薦めですが、アクションを期待した向きにはあまりお薦めでけいません。

監督:井筒和幸
出演:妻夫木聡 浅野忠信 桐谷健太 溝端淳平 チャンミン(東方神起) 西田敏行

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コメント 4

k_iga

ちょうどレンタルして来ました。
監督:井筒和幸というのが吉と出るか凶と出るか(笑)。
by k_iga (2013-04-24 00:45) 

べっちゃん

感想を楽しみにしています。
by べっちゃん (2013-04-24 08:36) 

k_iga

北川浩二(浅野忠信)が妻子を轢き逃げで失ったのに
何だかあっさりしていて・・・「?」という感じでした。

by k_iga (2013-05-03 16:05) 

べっちゃん

井筒監督、原作がちょっと未消化ですね。
by べっちゃん (2013-05-03 20:38) 

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