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有川 浩 『阪急電車』 [日記(2013)]

阪急電車 (幻冬舎文庫)
 映画『阪急電車』が面白かったので原作を読んでみました。職場で阪急沿線の友人に尋ねると、けっこう見たか読んだ人がいます。ローカルでは圧倒的な人気を誇ったようです。

 大筋は映画と同じですが、大きく違っているのは、冒頭と終章の「宝塚駅」に征志、ユキという男女が登場します。映画では、 関西のオバチャンをやっつけるのは時江(映画では宮本信子)でしたが、原作ではこの征志とユキのカップルも活躍します。

 毎日同じ通勤電車に乗っていると、何処の誰かは知りませんが顔なじみが出来るものです。別に挨拶をするわけでも無し、同じ車両ですれ違ったり隣り合わせに座ったりして、それぞれの駅で降り、それぞれの職場なり学校なりに向かいます。向こうは向こうで、このオッサン今日も乗ってる、昨日と同じスーツやないか、とかなんとか思っているんでしょうね。
 普通はあり得ないのでしょうが(だから映画では「片道15分の奇跡」と注釈が付いていますが)、同じ車両に乗り合わせた人たちが関係を持ったらたら如何なるドラマが展開するのか。誰もが一度は空想することを、小説にし、映画にしたところが面白いところです。

 主人公があるようで無い。ひとりが15分のドラマを演じて次の乗客にバトンを渡してゆきます。例えば、花嫁姿で電車に乗る翔子(映画では中谷美紀)に、時江は「討ち入りは成功したの?」と語りかけ、翔子はイジメにあっても昂然と跳ね返す小学生のショウコに「さっきのあなたはとってもカッコよかった」と語りかけます。会話だけではありません。ミサは悦子たち高校生の恋愛談義を耳にし、「自分より・・・ずっといい恋をしている」と、もつれた恋の精算を決意します。
 それぞれが持っている悩みややりきれなさが、車内のちょっとした触れ合いで、癒やされたり救われたりするわけです。

【翔子】
 誰が主人公というわけではないのですが、なんと言っても純白のドレス(花嫁衣装)で阪急電車に乗る翔子がインパクトを持っています。「あり得ない!」と言うなかれ、それが小説(笑。
 翔子は、結婚を約束していた男性を会社の後輩に「寝取られ」、婚約不履行で訴える!訴えられたくなかったら結婚式に招待しろということで、披露宴から帰える途中、純白のドレスで電車に乗っていたわけです。結婚式に、招待客が白いドレスを着ることはタブーらしいです。花嫁より綺麗だと困るわけですね。美人の翔子はこれを狙って白いドレスで出席し、当事者ふたりに取って結婚式を呪われた日にしようと目論んだわけです。時江は、これを「討ち入り」と表現したのです。
 時江は、翔子の姿をひと目見てこれを察し、涙を流す翔子を力づけます。
 ローカル線に乗る花嫁衣装の美女、シュールですねぇ。映画だと、いっそう絵になります。

【ミサ】
 イケメンの大学生と半同棲の女子大生ミサの物語です。恋人の部屋に通い掃除洗濯に料理、その見返りが暴力という関係をずるずる引きずっています。
 ふたりで出かけた車内で、白いドレスの翔子を見かけ、ミサは結婚式に白いドレスについての「常識」を恋人カツヤに話します。カツヤはキレて、電車のドアを蹴りつけるなどの粗暴な振る舞いに及び、時江が連れていた孫が泣き出します。時江に謝るミサに、「あんな男とは早く別れてしまいなさい」と宣います。
 
 ミサは、これも車内で声高に話す女子高生の会話を聞くともなしに耳にします。話題は、悦子と社会人である恋人の話で、その恋人が漢字も読めず如何に「アホ」であるかが話題となります。
 この会話は、関西弁を駆使したボケとツッコミで、関西ならいかにもという会話で、秀逸です。そして、「もうやったん?」という話題になり、彼氏は受験生の悦子の気持ちを汲んでそういう行為には及んでいないという話になります。ミサは、粗暴な自分の恋人と引き比べ、「嫌がることをせぇへんとこうと思うのが、好きっていうことちゃうん」と悟ります。ミサは、時江の忠告と悦子たちの会話から、恋人との関係を精算しようと決心します。 
 翔子に比べるとミサの物語は地味ですが、如何にもありそうな話です。

 登場するのは、恋の破局ばかりではありません。大学生の美帆と圭一のように、彼氏いない歴、彼女いない歴=年齢という地方出身の大学生同士が車内で知り合い、ほのぼのとした恋を実らせるエピソードも挟まれます。

 映画の方は、ラストで翔子とミサに「この世界も悪くない」と語らせています。小説にそうした表現はありませんが、小説を読見終わって、映画を見終わって30分ほどは、確かに「この世界も悪くない」と思ったりします(笑。

 しかし、阪神、近鉄、南海、京阪、山陽と(阪堺電気軌道も泉北高速鉄道も→私はこれに乗っている)、関西は私鉄王国。何故「阪急今津線」なんでしょうか?。今回の食品偽装で地に落ちたとはいえ、阪急と神戸はやはりブランドなのでしょう(笑。

タグ:読書
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