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映画 終着駅 トルストイ最後の旅(2009英独露) BSシネマ [日記(2014)]

終着駅 トルストイ最後の旅 [DVD]
 原題はThe Last Station。
 トルストイの奥さんソフィアは、ソクラテス、モーツアルトの妻とともに世界三大悪妻として有名です。トルストイは晩年に奥さんと喧嘩して家出、病を得て田舎の駅舎で亡くなっていますが、その顛末を描いた映画です。ソフィアは果たして悪妻だったのか?。

 悪妻と歴史に名をとどめるためには、当然ですが夫が所謂「偉人」である必要があります。つまり、妻としてこの夫の偉業の足を引っ張っる存在だったために「悪妻」と呼ばれるわけです。
 
 トルストイ(クリストファー・プラマー)はロシアの文豪であり非暴力平和主義者、「トルストイ運動」とかいう「新しき村」運動のようなものを主宰しています。この運動の組織者チェルトコフ(ポール・ジアマッティ)は、トルストイの著作権を運動に寄付させようと(正確には放棄させようと)画策し、そのことを知ったトルストイの妻ソフィア(ヘレン・ミレン)とトルストイの間には確執が生じます。トルストイは伯爵家の生まれで、広大な農地を所有する富豪です。ソフィアに言わせると、(映画ではサーシャという娘しか出てきませんが)13人?の子供を養わねばならず、夫が「トルストイ運動」に財産をつぎ込み、今また著作権まで渡してしまうことに不満を抱いています。なんといっても伯爵家ですから、著作権の収入が無くとも十分に暮らしてゆけるはずですが、多いにこしたことはないのでしょう。

 トルストイとソフィアは長年連れ添った夫婦として愛し合ってますが、この財産の処分を巡って深刻な対立が生まれます。この頃のトルストイは、小説家というより社会運動家で、チェルトコフとともに「トルストイ運動」に熱中しています。従って、この運動について理解の足りないソフィアと財産を巡って衝突を起こすわけです。ギャンブルに狂って給料をつぎ込む夫とそれを嘆く妻という構図でしょうか。何処にでもある家庭不和が、夫がトルストイとなるとソフィアは「悪妻」と歴史に刻まれます。

 映画は、チェルトコフによって送り込まれたトルストイの秘書ワレンチン(ジェームズ・マカヴォイ)を狂言回しとして、この「家庭不和」が描かれます(チェルトコフもワレンチンも実在の人物らしいです)。ワレンチンはトルストイにもソフィアにも気にいられ、目の前の夫婦喧嘩に右往左往する毎日。
 老夫婦の喧嘩ばかりでは面白く無いので、映画ではワレンチンと、トルストイ運動のコミュニティに住むマーシャ(ケリー・コンド)の恋がパラレルに展開されます。ワレンチンは、トルストイに心酔し運動に共鳴するぐらいですから、堅物のロマンチスト。マーシャに誘惑されて童貞を失い、あっという間に恋の虜になってしまいます。このふたりの恋(マーシャにとっては情事)は、トルストイ夫妻の愛と確執との補完関係にあります。トルストイが自分の若い頃の恋をワレンチンに語って聞かせるシーンがあります。その話は、恋というより、老トルストイの若き日の「情事」として語られ、文豪の以外な一面を知ることになります。
 「トルストイ運動」のコミュニティは禁欲的な集団であり、マーシャはワレンチンとの情事がバレてコミューンを追い出されそうになります。嫌気がさして、私モスクワに行く!というようなことで、ワレンチンは、まぁ棄てられたようなものです。ジェームズ・マカヴォイは、こういう役にはうってつけの俳優です。ワレンチンがマーシャを追うため秘書を辞職しようといういうその時、事件が起こります。
 
 トルストイが遺書を書き換え、著作権を「トルストイ運動」に譲ったことで、夫婦の不和は決定的なものとなり、トルストイは家出します。トルストイが家出して寂しい駅で亡くなったことは知っていましたから、きっと着の身着のまま、駅のベンチで一人寂しく死んだと勝手に思っていました。家出と言ってもそこはトルストイですから、我々一般の夫の家出とはわけが違います。娘と秘書を連れて「家出」します。ソフィアを追い出す選択肢もあったはずですが、愛妻家のトルストイは自分から逃げ出します(逃げ出したという雰囲気です)。

 トルストイは病を得て、なんとかいう駅(現在はレフ・トルストイ駅)の駅舎で死の床につきます。ここが山場でしょう。危篤を聞いたソフィアとチェルトコフは共に駅に駆けつけますが、一歩先んじたチェルトコフは、ソフィアの面会を許しません。ソフィアに会わせれば愁嘆場が演じられ、トルストイの名に傷がつくというわけです。ソフィアは用意がいいことにロシア正教会の神父まで同道しています。ロシア正教会と決別したトルストイを臨終の場で教会に引き戻し、これも教会と対立する「トルストイ運動」と夫を離反させようといわけです。
 その三角関係を横で見ている秘書ワレンチンは、「トルストイ運動」の実相を見抜き、チェルトコフを非難します、

トルストイの「尊厳ある死」をのぞむアンタは、偶像を作りたいんだ

 トルストイは亡くなり、ワレンチンはトルストイと「運動」を否定してマーシャを選択し、著作権はソフィアに遺されます。

 この映画は、トルストイをめぐる、夫人ソフィア、トルストイ運動の組織者チェルトコフの「三角関係」を描いたといえます。もっと抽象的に言えば、トルストイの「公」とソフィアの「私」の問題、トルストイの思想が組織化された時、組織はトルストイの理念を置き去りにして勝手に動き出すという問題を描いたのかとも思うのですが。で、ソフィアは悪妻だったのか?という映画です。

 ソフィアにヘレン・ミレン、トルストイにクリストファー・プラマーと演技派を配し、『ウォンテッド』『ラスト・キング・オブ・スコットランド』のジェームズ・マカヴォイ、『サイドウェイ』のポール・ジアマッティを揃えて、なかなかの布陣です。
 地味な映画ですが、お薦めです。

監督:マイケル・ホフマン
出演:ヘレン・ミレン クリストファー・プラマー ジェームズ・マカヴォイ ポール・ジアマッティ

タグ:BSシネマ
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