読書 浅田次郎 地下鉄に乗って [日記(2015)]
この物語の主人公である信次がタイムスリップして父親の過去と巡り会い、関係を修復するという物語に、真次の不倫相手みち子の物語が絡みます。
これは当たり前の話で、誰だって無垢な時代はあるわけで、人は世間に揉まれて厚顔無恥な鎧を纏い、人生のスレッカラシになるわけです。実は、真次自身も身勝手な人間であり、佐吉の分身に他なりません。佐吉の遺産で妻子を捨て、みち子と一緒になることを彼女に持ちかけています。また、真次の母親は、みち子を訪ね真次をよろしく頼むと言っています。真次が頼んだわけでは無いのですが、これは妾に手当てを渡す佐吉の妻の姿に他なりません。
真次のタイムトラベルは、昭和39年、21年、20年、昭和初年と過去に遡り、その各々の時代に佐吉が登場しますが、みち子もまた登場しています。真次と佐吉の物語に、何故がみち子が登場するのか。その謎が終章で明らかにされます。
真次とみち子は、佐吉を父とする腹違いの兄妹だったのです。それが、真次のタイムトラベルの時代にみち子が登場した理由です。真次のタイムトラベルの裏で、みち子と佐吉の物語が進行していたのです。
みち子は、この事実から真次を救い出すため、昭和39年に自らを身ごもった母お時を抱いて石段を転げ落ち、流産させます。お時がみち子を産まなければ現在のみち子は存在せず、みち子は自分の存在しないもうひとつの歴史を作ろうとしたのです。
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