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映画 ペコロスの母に会いに行く(2013日) [日記(2016)]

ペコロスの母に会いに行く 通常版 [DVD]ペコロスの母に会いに行く
 岡野雄一の漫画『ペコロスの母に会いに行く』を原作とした、「一見」介護映画です。原作を読んだことはありませんが、監督が森崎東ですから、認知症、介護から何を引き出すのか興味のあるところです。
  
 主人公ユウイチ(岩松了)は、「神経の細かすぎる父としっかり者の母」を両親に長崎に生まれ、今も長崎に暮らしていると云う団塊の世代。ライブハウスで自作のコミックソングを歌い、漫画も描くと云う、肩の力を抜いた人生を送っている男ヤモメです。
 父親が亡くなって母親ミツエ(赤木春恵)は認知症となります。仕事を抱え息子とふたりで母親を介護すると云う日々が、深刻振らずユーモラスに描かれます。夫が亡くなっていることも忘れ、徘徊癖があり直近の記憶が飛ぶ母親を、仕事を持ちながら介護するわけですからコレはもう無理。ユウイチは母親を介護施設に入れる決心をします。
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 介護施設もまたボケ老人の集まりで、人を見れば飴をねだる老婆、女学生時代に戻った老婆、原爆で亡くなった妹を当時のように背負う老婆、介護士の胸を触る老人等などが登場し、さながら保育園。老人が揃って外出した時のこと、保母さんに引率される保育園児の一行に出会います。介護士が眼を離したすきに、老人一行は園児に付いて行ってしまいます。介護施設とその老人たちもまたユーモラスに描かれ、痴呆症を「退行」と捉えず人間は老いると幼児に戻る、純真になるということです。

 そんな施設の中でミツエのボケは進行します。孫と郵便配達の区別がつかず、息子が会いに行っても誰か分からず、帽子を脱いだハゲ頭を見てやっとユウイチと気づく有様となります。「ハゲ茶瓶」の頭を叩き、ユウイチ、ユウイチと叫ぶ母子の姿は胸を打ちます。
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 介護や認知症をユーモラス描いた映画かというと、どうも違うようです。現在のミツエと若い頃のミツエ(原田貴和子)が交互に描かれ、映画の主人公はミツエです。ミツエは10人兄弟の長女として天草の農家に生まれます。兄弟姉妹の面倒をみながら野良仕事に精を出し、嫁いでユウイチを産み、酒乱で「神経の細かすぎる」夫に泣かされユウイチと心中する瀬戸際まで経験しています。10年前に夫を亡くし、息子と孫の3人で平和に暮らすミツエに認知症が訪れます。
 人生の終着が、認知症となって介護施設という一見絵に描いたような不幸を、映画は見事に覆してくれます。
 ミツエは、長崎ランタンフェスティバルの夜、眼鏡橋の上で父ちゃん、タカヨ、チエコ(原爆症で死んだ幼馴染み)と出会います。「父ちゃんも(幼くして死んだ妹)タカヨも死んでからの方がよく会いに来てくれる」と語るミツエは、この世とあの世を行き来する、人間を越えた存在となったのです。

 ラストで、ユウイチと車椅子のミツエは、ベビーカーを押す若い母親とスレ違います。年老いた母と若い母、車椅子のミツエとベビーカーの赤ん坊、この母親を演じるのが原田貴和子です。思わず「輪廻」という言葉を連想しました。
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ユウイチの一言、

ぼけるとも、悪か事ことばかりじゃなかかもしれん

見事という他はありません。
 
監督:森崎東
原作:岡野雄一
出演:岩松了 赤木春恵 原田貴和子 加瀬亮


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Lee

原作は週間朝日でリアルに読んでいます。ほのぼのする絵柄で和みますが、ミツエ母さんが亡くなってネタをどうするのかと思ったら、過去のエピソードを織り交ぜたファンタジーになっています。誰かが下の世話をやらねばならない介護の現場はきれいごとではありませんけどね。
by Lee (2016-03-20 01:07) 

べっちゃん

何事にも裏はあるもので、一方から捉えればこうしたファンタジーが成立するということでしょうね。これはあくまで映画です。
by べっちゃん (2016-03-20 08:56) 

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