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浅田次郎 天子蒙塵 第四巻 [日記(2018)]

天子蒙塵 第四巻 共和国執政となった溥儀がいよいよ皇帝となり「満州帝国」が成立する最終巻です。第四巻でも主人公は溥儀と張学良。ふたりに加え、駆け落ちして満州に逃れた池上美子と美子を助ける憲兵隊酒井大尉、店の金を盗んで新天地満州に渡った木築正太、府立一中を抜け出した田宮修が引き続き登場。日本の満州政策を解説する永田鉄山、石原莞爾、張作霖の軍事顧問だった吉永大佐(架空人物)、武藤信義の元通訳で奉天特務機関・志津邦陽(架空人物)が登場します。

 酒井大尉は美子を連れて満州鉄道、シベリア鉄道を乗り継ぎパリへ向かいます。彼女の夫は軍を動かし、駆け落ちの相手に召集令状を出し兵役忌避で逮捕させるという手段に出ます。酒井はこの軍と政商の癒着に愛想をつかし、憲兵隊を捨て美子と共に脱走を図るわけです。同じ理由で永田鉄山がふたりに救助の手を差し伸べるというありそうも無い話。どう決着をつけるんだろうと期待したのですが、逃避行はワルシャワの駅で終わる尻切れトンボ。
 木築正太はあこがれの馬賊馬占山の元に向かい、田宮修は満映のオーデションに合格しこれも映画スターを目指しますが、ふたりとも志半ばで決着はついていません。馬占山は抗日ゲリラですから正太は故国を捨てることとなり、田宮の方はオーデションに甘粕正彦まで登場させたのですが、この国策映画会社「満映」については触れずじまい。
 広げるだけ広げて落とし所の無いエピソードは、ストーリーテラー浅田次郎らしくもないです。『天子蒙塵』の主役は「満州」であり愛新覚羅溥儀と張学良ですから、日本庶民の閉塞感のはけ口としての満州はこの程度かもしれません。
 もうひとつ。紅軍(共産軍)討伐の指揮官となるため南京に向かう張学良の元に、周恩来が現れます。宋教仁を語るだけでこれと言った進展はありません。このタイミングで周恩来を登場させたのは、明らかに西安事件と第二次国共合作の布石に他なりません。ということは、第五巻があるということなんでしょうね、浅田さん。

 出色だったのは、溥儀が皇帝となる儀式・郊祭式についての会議。国務院総理/鄭孝胥、民政部総長/臧式毅、財政部総長/熙洽、軍政部総長/張景恵と満州国の大臣が顔を揃えます。郊祭式では、皇帝が「璽」と「玉」を自らを天帝に奉る儀式が執り行われます。この皇帝に璽と玉を手渡す晴れがましい役目を、四人は何だかんだ言って逃げます。満州帝国が瓦解すれば、郊祭式を仕切った大臣は責任を問われることとなり、それを恐れた四人は逃げたわけです。身内の大臣さえも満州帝国を信用せず、満州帝国とはそれほど危うい存在だったわけです。

 挙人の学位しか持たぬ、逃げ遅れた老臣。王朝とは無縁の軍閥から居流れた、氏素性のよくわからぬ男。  三百年前に枝分かれした、遠い遠い親類。そして馬賊の親分と、一羽か一匹かの数え方もわからぬ蝙蝠。 この御方のまわりには、そんなロクデナシしかいない。

見てきたような話ですが、このエピソードは説得力があります。で誰が璽と玉を溥儀に手渡したのか?。「戊戌の変法」で失脚し廃帝溥儀を支え続けた梁文秀と、元大総管太監督(宦官)の李春雲だったとは、出来すぎた話です。
 皇后婉容が娘を出産します。(本書では)不能だった溥儀の子である筈はなく不義の子です。その子は生まれてから一時間足らずのうちにボイラーに放り込んで殺害されます(wikipediaにも記載)。殺害したのは梁文秀の妻で李春雲の妹・玲玲で、浅田次郎は虚虚実実の物語を『蒼穹の昴』で幕を引きます。

 『蒼穹の昴』で始まった物語は『天子蒙塵』第四巻、1934年満州帝国の成立で終わります。積み残し満載で、これで完結と言われても...。

タグ:読書
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