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小泉節子 思い出の記 (1) 怪談 (1914青空文庫) [日記 (2022)]

思い出の記 小泉セツ.jpg
 
田渕久美子『ヘルンとセツ』繋がりです。ラフカディオ・ハーン没後の1914年に、妻の小泉セツ(節子)がハーンとの思い出を記したものです。小説の方は、ハーンとセツが結婚に至る物語で主人公はセツですが、本書の主人公はヘルン。妻の目から見たハーンが生き生きと描かれます。

怪談』の成立
 本書を読むと『怪談』の成立過程がよく分かります。セツが語りハーンが記録するわけです。

淋しそうな夜、ランプの心を下げて怪談を致しました。ヘルンは私に物を聞くにも、その時には殊に声を低くして息を殺して恐ろしそうにして、私の話を聞いて居るのです。その聞いて居る風が又如何にも恐ろしくてならぬ様子ですから、自然と私の話にも力がこもるのです。

円朝が「牡丹灯籠」を語るように、セツが薄暗い部屋で「怪談」を語るわけです。

私が本を見ながら話しますと『本を見る、いけません。ただあなたの話、あなたの言葉、あなたの考でなければ、いけません』と申します故、自分の物にしてしまっていなければなりませんから、夢にまで見るようになって参りました。 

セツは相当の噺家、演者だったようです。

話が面白いとなると、いつも非常に真面目にあらたまるのでございます。顔の色が変りまして眼が鋭く恐ろしくなります。その様子の変り方が中々ひどいのです。たとえばあの『骨董』の初めにある「幽霊滝」のお勝さんの話の時なども、私はいつものように話して参りますうちに顔の色が青くなって眼をすえて居るのでございます。

有名な『耳なし芳一』はこうです。

「耳なし芳一」を書いています時の事でした。日が暮れてもランプをつけていません。私はふすまを開けないで次の間から、小さい声で、芳一 芳一と呼んで見ました。『はい、私は盲目です、あなたはどなたでございますか』と内から云って、それで黙って居るのでございます。

セツの語りでハーンはトランス状態に陥るようです。「幽霊滝」は背中の子供首はが幽霊に持っていかれる噺です。これを語った時は、

『アラッ、血が』(と云う語りを)あれを何度も何度もくりかえさせました。どんな風をして云ってたでしょう。その声はどんなでしょう。履物の音は何とあなたに響きますか。その夜はどんなでしたろう。私はこう思います、あなたはどうです、などと本に全くない事まで、色々と相談致します。二人の様子を外から見ましたら、全く発狂者のようでしたろうと思われます。

『怪談』が成立するに、如何にセツの存在が大きかったかということが分かります。オススメです。

 引用ばかりでスミマセン。

タグ:読書
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