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森岡孝二 働きすぎの時代 岩波新書 [日記(2005)]

働きすぎの時代

働きすぎの時代

  • 作者: 森岡 孝二
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/08
  • メディア: 新書

 著者によると、2002年版「オックスフォード英語辞典」にkaroushi(過労死)という単語が採用されたらしい。これは過労死が日本から世界に広がりつつあることを示唆している。かつて「働き蜂」と揶揄された日本固有の現象は、今や全世界で見られる現象となっている。
 この働きすぎの時代を著者は、
・グローバル資本主義
・情報資本主義
・消費資本主義
・フリーター資本主義
の四つのキーワード使って読み解く。

 ボーダレスの今日、日本の労働者は中国の労働者と競争して働かなければならない。産業の空洞化とあいまって、賃金に限らず労働環境そのものが競争にさらされている。第三の波でアルビン・トフラーはホームオフィスの夢を見させてくれたが、インターネット、携帯電話をはじめとするIT化は家庭と職場をボーダレス化し、私的時間を簒奪をしつつある。また、IT化により労働は標準化マニュアル化され、アウトソーシングを可能としたため、大量の派遣労働者を生み出した(アマゾン、マグドナルドの例)。ITを使ってビジネスをするためには、ビジネスを分析し標準化する少数の労働者と、それをシステム化する労働者、システムを使う多数の労働者に2極分化する。後者二つはほとんどの場合派遣労働者によるアウトソーシングである。システム開発の現場とコールセンターがその代表であろうか。ソフト開発の現場を訪れたことがある。若い男性が百人あまりズラリと並んで一斉にパソコンの画面と向かい合っている。ジーンズにカジュアルシャツの軽装もあれば、スーツ姿もある。会話も電話もない部屋でキーボードの音だけが響く異様な光景であった。一方、某大手のコールセンターは妙齢の女性派遣社員だけである。幾何学的に配置されたデスクで(雰囲気を和らげるために長方形の机の配置はしないそうだ)ヘッドフォンを付け数百人の女性が端末に向かっている。こちらも全員私服である。かかってくる電話はIVRにより業務別、スキル別に振り分けられるため、熟練を要しないそうである。部屋の中央に航空管制棟を想像させるガラス張りのコントロール室があり、彼女らの働きぶりがディスプレイでモニターされている。ここで、正社員はこのコントロール室の数人だけである。
フリーター資本主義のフリーターとは、パートタイマー、アルバイトをはじめこれら派遣社員を含めた広義の非正社員を指している。こうした労働の2極分化は、週30時間の労働と週60時間を越える労働時間(働きすぎ)の2極分化を生んでいる、と著者はいう。
 この本を読んだ理由のひとつが、以上の光景が印象深く記憶に残っていたためである。技術の進歩、経済の発展は時短というかたちで我々に豊かな余暇を生み出すはずであったが、著者の言う4つの資本主義は、労働の形と質を変えてしまったらしい。

★★★☆☆


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