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松井今朝子 似せ者 [日記(2008)]

似せ者 (講談社文庫)

似せ者 (講談社文庫)

  • 作者: 松井 今朝子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/08/12
  • メディア: 文庫


 『吉原手引草』で2007年の直木賞作家となった松井今朝子の短編集です。『吉原手引草』はハードカバーで高価なため、こっちで我慢。

 松竹で歌舞伎の企画を手がけた作家ならではの江戸期の歌舞伎役者の世界を描いた4つの短編が収録されています。藤十郎とそのそっくりさんをマネージャーの視点から描いた『似せ者』、一対の狛犬の様に性格の異なる役者の顛末を描いた『狛犬』、名優の晩年をディレクターの視点で捉えた『鶴亀』、江戸が東京へと変わる時代を背景に、囃子方の三味線引きと長唄を道楽とする武士、その妾との関係を描いた『心のこり』。いずれも、歌舞伎の世界を借景に人間の哀感を歌いあげた佳作です。

松井今朝子は初めて読みますが、文章が巧いですね。歌舞伎の世界は自分の庭のようなものでしょうから、浮かぶイメージを言葉で紡いでゆけばいいのでしょうが、↓の様な文章に出会うとうれしくなります、ちょっと長い引用。

 『庭の真ん中には水を張った大きな盥が置かれていた。そばの物干し竿には藍染めの浴衣がかかっていた。
 腰から下を盥に浸した女は長い黒髪を上にまとめあげ、幾筋かのおくれ毛が細いうなじを覆うのみ。滑らかな背中を隠すものは何もない。女の裸は見慣れているとはいえ、昼下がりの強い日射しで見るのはまた別物だ。
・・・・
堅く棒立ちになる男をみて女は嫣然と微笑んだ。
「ちょいと待ってくんなよ」
落ち着いた口調で盥を出ると、素早くからだを拭いて有松絞りの浴衣を肩にかける。』

一瞬、山本周五郎の市井ものを読んでいるよな錯覚に陥ります。『さぶ』を意識したわけではないでしょうが、目端がきいて男振りのいい助五郎、不器用だが『心の真っ白』な広治の対照的なふたりの役者と気っ風のいい芸者の三人を描いた『狛犬』は秀逸です。

『吉原手引草』も読まねば →☆☆☆☆★ 


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