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フランシス・F・コッポラ 地獄の黙示録 特別完全版 [日記(2008)]

地獄の黙示録 特別完全版

地獄の黙示録 特別完全版

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: DVD

 これを観ないでは映画は語れない、という一本です。夏休みの宿題代わりに観ました。ウィラード大尉がカーツ大佐暗殺の密命を帯び、哨戒艇で川を遡る前半、カーツ大佐を見つけ彼を殺す後半の二部構成です。難解と云われる『黙示録』ですが、前半は非常に分かりやすいです。ボートで川を遡る中で、ベトナム戦争の持つ様々な顔に出会い、この戦争を多面的に描いています。

【ワーグナーの『ワルキューレの騎行』】
 『ワルキューレの騎行』をバックにへり部隊が飛びます。この映画が語られる時には必ず出てきます。戦争映画の持つ一種の爽快感を描ききった名場面です。爽快感と云うと不謹慎な様ですが、勇壮な進軍と大規模な破壊にはどうしても爽快感を感じてしまいます。
 この馬に代わってヘリコプターを駆る第一騎兵隊の行動は、アメリカの侵略戦争のカリカチュアでしょうか。いかにもありそうなエピソードです。ヘリコプターにサーフボードを積み、サーフィンをするために村を襲撃し、ナパーム弾でジャングルを焼き払うという暴挙が、あっけらかんと描かれます。
 第1騎兵隊の指揮官キルゴア中佐がただひとり騎兵隊の帽子(テンガロンハット)を被っている事も、自分だけは弾に当たらないと信じる蛮勇も、アメリカの保守性と身勝手さの象徴でしょう。(映画に限らず、このテンガロンハットとカウボーイ・ブーツはアメリカの保守性の象徴としてよく登場します。)【フランス人の農園】
 仏領インドシナと云われる様に、ベトナムは元々フランスの植民地です。ベトコンの前身『ベトミン』はベトナムをフランスから解放する人民戦線でした。ベトナムに、植民地時代の農園(プランテーション)を経営するフランス人がいて、私兵を庸しベトコンと戦ってるエピソードは不思議はありません。農園主の晩餐の席で語られるフランス植民地農園の歴史、ベトミンからベトコンへの変遷と彼らと敵対する勢力、援助する勢力の解説されますが、『オリジナル版』には無く、『特別完全版』で挿入されたシーンの様です。ベトナム戦争を多面的に捉えるという意味でのコッポラの意図には賛成します。

【プレイメイト】
 プレイポーイ誌のカバーガールがベトナムを慰問するシーンがありますが、その後の『プレイメイト』のエピソードです。辺境の米軍基地でベトコンの襲撃を受け、立ち往生の末、米兵によって売春させられています。燃料2缶でウィラード一行を全員面倒見るという商談が成立します。兵士だけではなく、慰問に訪れた『アメリカ』それ自身も戦塵にまみれるという悪夢でしょうか?これも『特別完全版』で挿入されたシーンの様です。

【地獄の黙示録】
タイトルの『Apocalypse now』wikipediaによると『黙示』とは「隠されていたものが明らかにされるという意味」のようです。コッポラが明らかにしたかったものとは何なのか?ベトナム戦争の真の姿?そんなものでは無いでしょうね。川を遡りエピソードを描くことでそれなりに隠されたもの明らかにしています。その最後に持ってきたのがカーツです。カーツこそが隠された真実なのでしょう。

【カーツ大佐】
 これが最大の難問です。38歳になって将官への道を捨ててグリーンベレーに再入隊し、中央の承認を得ない作戦で功績を立て、今はカンボジアで現地人を私兵としてカーツ王国を築いているという怪物です。ウィラードの任務はこのカーツ大佐の抹殺であり、その顛末を描くことがこの映画の主題の筈です。

で、カーツ大佐とは何なのか?

 カーツ大佐が現地人の理想国家を目指していないことは明白です。カーツ王国に足を踏み入れたウィラードが目にするのは生首であり処刑された死体だからです。カーツは恐怖で支配する絶対君主として闇の王国に君臨していたのです。では何故カーツはこの恐怖の王国を作る必要があったのか、そして誰と戦っているかです。ウィラードはカーツがこもる寺院の側で大量の北ベトナム人、カンボジア人、ベトコンの死体を見ます。カーツは今も特殊部隊の将校として任務を果たしているのでしょうか。
 カーツはウィラードにこう語ります、

『私は地獄を見た、君が見た地獄を。だが私を殺人者と呼ぶ権利はない。私を殺す権利はあるが、私を裁く権利はない。
言葉では言えない。地獄を知らぬ者に何が必要かを言葉で説いて分からせることは不可能だ。
恐怖、地獄の恐怖には顔がある。それを友とせねばならぬ。恐怖とそれに怯える心、両者を友とせねば、(地獄は?)一転して恐るべき敵となる。真に恐るべき敵だ。』

この後、カーツは特殊部隊にいた頃のエピソードを語ります。カーツ等がポリオワクチンを接種した収容所の子供達の腕を切り落としたベトコンのエピソードを語り、非情なベトコンの戦士が10個師団あればこの戦争を終わらせることが出来る、と。

ではカーツは恐怖で原住民を支配し『恐怖とそれに怯える心を友とする』兵士を養成しベトコンと戦っているのでしょうか?

カーツの居室で、フレイザーの『金枝編』とウェストン『祭祀からロマンスへ』がクローズアップされます。『金枝編』は神話、呪術の民族学の有名な本です。『祭祀からロマンスへ』は(調べると)ケルト伝説、聖杯伝説の研究書だそうです。これも謎です。
ウィラードがカーツを殺害するシーンに、原住民の牛を生贄とする祭事、牛の首を切り落とす血なまぐさいシーンがオーバーラップされます。これと民俗学関係があるのでしょうか?

【ウィラードは何故カーツを殺したのか?】
 情報部から受けた命令がカーツの抹殺ですから、当然と云えば当然なのですが。ウィラードは、カーツという人物に興味を抱き、カーツに捕らえられ、カーツの存在に圧倒されます。ウィラードの前に送り込まれた刺客はカーツに取り込まれ彼の部下となっています。ウィラードもそうなってもよかったのでしょうが、結局カーツを殺害します。惨殺と云っていいでしょう。ウィラードは、恐怖で支配するベトナム戦争と云う地獄、その象徴としてのカーツを許容できなかった、こじつけですがこれが理由ということにしておきます。

カーツの最期の言葉は
『地獄だ、地獄の恐怖だ』です。
この映画のエンディングもまたウィラードの呟く言葉
『地獄だ、地獄の恐怖だ』で幕を閉じます。

3時間半に及ぶ大作ですが、一気に観てしまいました。が、何か吹っ切れないものが残ります。未だに、
カーツとは何なのか? ウィラードは何故カーツを殺したのか? ・・・です。

原題:Apocalypse Now
監督:フランシス・F・コッポラ
原作:ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』
キャスト
カーツ大佐:マーロン・ブランド
ウィラード大尉:マーティン・シーン
キルゴア中佐:ロバート・デュヴァル
シェフ:フレデリック・フォレスト
フォト・ジャーナリスト:デニス・ホッパー
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