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村上春樹 レキシントンの幽霊 [日記(2008)]


レキシントンの幽霊 (文春文庫)

レキシントンの幽霊 (文春文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1999/10
  • メディア: 文庫


 村上春樹はチャンドラーの翻訳、マラソンについてのエッセーは出しましたが、本格的な小説は出していません。何か書いているのでしょうか。
 7編が納められた短編集です。後書きによると、『ダンス・ダンス・ダンス』の後(1990年)に
書かれたものと、『ねじまき鳥クロニクル』の後(1996年)で書かれたものらしいです。『ダンス』も『クロニクル』も好きですから(というかハルキの長編はたいてい好きです)、きっと面白いという先入観で読んでしまいます。
 例えば、短編集の標題にもなっている『レキシントンの幽霊』です。アメリカ東海岸のレキシントンで、作者は古い屋敷の持ち主から留守番を頼まれます。その真夜中、誰もいない筈の階下でパーティーが開かれている物音を聞き、主人公が降りてみると誰もいないという怪奇現象に出会います。そしてひとつのエピソード語られます。屋敷の持ち主の母親が亡くなった時、彼の父親は三週間昏々と眠り続け、その父親が亡くなった時、彼もまた二週間眠り続けたという。自分が死んでも自分のためにそんなに眠ってくれる人はいないと、という独白で終わります。古い屋敷、幽霊のパーティー、死への親近感、話はこれだけです。

 もうひとつ、『トニー滝谷』。愛妻と父親を亡くしたイラストレーターの物語です。彼が初めて妻と出会った時の描写

『彼女はまるで遠い世界へ飛び立つ鳥が特別な風を身にまとうように、とても自然にとても優美に服をまとっていた。服の方も彼女の身にまとわわれることによって、新たな生命を獲得したかのように見えた。』

彼の妻は洋服を見ると買わずにおれない性癖を持っており、毎日2回着替えても2年かかるだけの7号の服とサイズ22の200足の靴を残して死んでしまいます。死後、イラストレーターは、7号の服、サイズ22の靴に合う条件のアシスタントを募集します。アシスタントは決まり、服と靴は誂えたようにアシスタントにぴったり合いますが、何故か契約を破棄し服と靴を処分してしまいます。動機に、トロンボーンの奏者であった父親の遺品、これも膨大なジャズ・レコードを処分します。話はれだけです。服を買うと云う行為が限りなく彼女の孤独を象徴し、服と靴を処分することでトニー滝谷の再生を暗示しています。

・緑色の怪獣が人妻にプロポーズをする『緑の獣』
・氷男と呼ばれる男性と結婚した若い女を描いた『氷男』
・ボクシング・ジムに通う男が同級生を殴る顛末を回想した『沈黙』
・波にさらわれた友人の思出から逃れる話の『7番目の男』
・従兄弟の難聴治療とこの世には存在しない『めくらやなぎ』をダブらせた『めくらやなぎと、眠る女』

 死と喪失を扱った短編が多く、『ダンス』と『クロニクル』のイメージを断片的に書いたものです。短編小説として成り立つものかどうあかは分かりませんが、久々に小説を堪能しました。村上春樹の短編もなかなかいいですね。
★★★

 『トニー滝谷』は、先日亡くなった映画監督・市川準によって映画化されています。キャストは、イッセイ尾形、宮沢りえ。村上春樹の映像化には興味が湧きます。

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