A.J.クィネル スナップ・ショット [日記(2009)]
『燃える男』『血の絆』に続く3冊目です。『燃える男』はイタリヤ・マフィアに闘いを挑む元傭兵の冒険譚、『血の絆』は東アフリカで行方不明となった息子を捜す母親をヒロインとした海洋冒険小説です。いずれも主人公を取り巻く魅力的な脇役が登場し、群像劇の趣があります。『スナップ・ショット』もマンガーをヒーローとしながら、同じ戦争カメラマンでCIAでもあるダフ、その妻のルース、大富豪にしてモサドのスパイ・マスターのウォールター、新聞特派員を隠れ蓑とするフランスのスパイ、ジャニータなど個性豊かな人物が登場します。イスラエルの隻眼の将軍ダヤンやペギン首相まで登場し、中東を舞台にアラブ・イスラエルの諜報戦が描かれます。
これもクィネルの特徴かと思うのですが、小説の主題に至る過程がじっくり書き込まれることも魅力のひとつです。本書では、主人公マンガーはエピソードとしては語られますが、実際に登場するのは小説の後半になってからです。主人公の登場まで、脇役がしストーリーを引っ張っぱり、すっかり舞台が設定されてから華々しく?主人公の登場となります。
本書は、イスラエルのイラク原子炉爆撃事件(1981年)を主題としています。イラクはフランスからの技術供与により原子力発電所を建設します。軍事転用によりイラクが核保有国となることを恐れたイスラエルは、発電所の稼働直前に6機の戦闘機によりこれを爆破します。戦闘機のうち5機は爆弾を投下し、1機は何故か爆弾を投下しなかった。
クィネルは、天才カメラマン・マンガーを配することによってこの事件の謎を解き明かします。これを外側の謎とし、マンガーという云う内側の謎を配し、ストーリーを盛り上げます。マンガーは、キプロス、ビアフラ、ボルネオ、アンゴラ、ベトナムと戦場を渡り歩いた天才カメラマンとして描かれますが、ベトナムである偵察作戦に同行した後突如カメラを売り払い引退してしまいます・・・(おまけに、女たらしのマンガーがインポテンツになる!→これも重要な複線なのですが)。
お薦めです →★★★★
A.J.クィネル著作(いずれも 大熊 栄 訳)
トレイル・オブ・ティアズ
ヴァチカンからの暗殺者 (新潮文庫)
メッカを撃て (集英社文庫)
ブルー・リング (集英社文庫)
ブルー・リング (集英社文庫)
ブラック・ホーン (集英社文庫)
地獄の静かな夜
地獄からのメッセージ (新潮文庫)
燃える男 (集英社文庫) ・・・読了
スナップ・ショット (集英社文庫)・・・読了
パーフェクト・キル (集英社文庫)
イローナの四人の父親 (新潮文庫)
血の絆 (新潮文庫)・・・読了
サン・カルロの対決 (新潮文庫)
コメント 0