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ベルンハルト・シュリンク 朗読者 [日記(2010)]

朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)

  • 作者: ベルンハルト シュリンク
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/05
  • メディア: 文庫
 スティーブン・ダルドリー監督、ケイト・ウィンスレット主演の映画『愛を読むひと』の原作です。この映画で、ケイト・ウィンスレットは2008年のアカデミー賞主演女優賞を獲っています。小説はアメリカでは200万部も売れたベストセラーのようです(Wikipedia)。映画を見てから原作を読んだ関係で、ケイト・ウィンスレットが目の前にちらついて、どうもこういう読み方はアレですね。
 
 第1部で、ミヒャエルとハンナの出会いです。
 小説はミヒャエルの回想の形を取りミヒャエルの独白として進行します。15歳のミヒャエルが36歳のハンナに恋をします。恋というより性愛を仲立ちとした男女関係と呼んでもいいかもしれません。それにしても、ハンナという女性像がなかなか見えてきません。ハンナは、15歳の少年から見た36歳の大人の女性ですからミステリアスであって当たりまえかもしれません。このミステリアスな部分が伏線となって第2部以下へと続くきます。

 半年の関係の後、ハンナはミヒャエルの前から忽然と姿を消してしまいます。ミヒャエルはハンナの落とした影を背負って生き続けて行くのですが、この『影』について具体的に語られことはありません。恋には違いないでしょうが、もう少し複雑です。当然人目をはばかる恋であり、ミヒャエルはハンナとの関係を周囲から隠しておくことに罪の意識を憶え、それを『裏切り』と考えています。

 ハンナはぼくが欲望で一杯になって彼女のところに来たときなどに、からかって言ったものだった。

「いま、何が望みなの?たった1時間で人生のすべてを?」(ふたりが見た映画のセリフ)

 ミヒャエルはこの通り、ハンナとの半年の逢瀬で人生を使い切ったのかもしれません。

 第2部で、法学部の学生になったミヒャエルは(傍聴しに行った)法廷でハンナと再会します。
 思い出とは記憶の確認にすぎない、とミヒャエルは一見冷静に自己分析しますが、被告席のハンナのうなじや肩のほくろを見ることで、ハンナは過去から現在に立ち現れミヒャエルを脅かします。高校時代の友人ゾフィーと分かれた原因も、離婚の原因もミヒャエルの心に刻まれたハンナの『影』であったことがと明かされます。ハンナの幻影が何故かくもミヒャエルの現実を脅かすのでしょうか。

 ハンナはナチの強制収容所の看守として裁かれます。ここに至って、ミヒャエルを15歳、ハンナを36歳とした作者の意図が明らかとなります。親子ほどに年が離れたふたつの世代、戦後世代はナチと係わった親の世代を裁けるか?という問いかけでしょう。ふたりを恋愛関係と設定することで、裁く側と裁かれる側の関係を劇的なものにしたわけです。

 子供の世代は、親の世代を裁けなかったわけです。裁くどころか、文盲を見逃すことで、ミヒャエルはハンナの共犯となったのです。文盲であること、文字が書けないことが明らかになれば、ハンナは微罪として軽い懲役刑になったはずですが、ミヒャエルが黙っていたことによって彼女は無期懲役となります。何故、無期懲役よりも文盲を隠すことが重要だったのか?答えはありません。

第3部で、ミヒャエルとハンナの現在が語られます。
 ここで、ミヒャエルは物語を吹き込んだテープをハンナに送り、かつての様にハンナの朗読者となります。この突然の行動も確たる動機は明らかにされていません。第2部で、ハンナは(ミヒャエルを『朗読者』に仕立て上げたように)囚人の少女を『朗読者』として利用していた事実が明らかにされています。朗読テープをハンナに送ることによって、ミヒャエルは、朗読者=坊や(かつてハンナはミヒャエルをそう呼んでいた)に戻ります。刑期短縮によってハンナは出所となり、ミヒャエルが身元を引き受けることとなります。出所の前日、ハンナは自殺します。この自殺にも答えはありません。

 『朗読者』はホロコーストを背景としたハンナとミヒャエルの罪と罰の物語とも読めますが、ハンナとミヒャエルの恋の物語ではないですか。ハンナの独房の壁には、ミヒャエルの写った古い新聞の切り抜きがありました。15歳の男と36歳の女の、時間を超えた恋物語です。
 その恋に、永遠を封じ込めてハンナは死んだのかもしれません。

 映画を見て生じた疑問が原作を読むことで解決される、と思ったのですが、私の読解力では、謎はますます深まりました。



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コメント 2

Betty

鑑賞者・読者が思い描く世界が答えなのかもしれないですね。
by Betty (2010-03-02 15:16) 

べっちゃん

どうもしっくり来ない読後感ですね。
by べっちゃん (2010-03-02 21:19) 

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