映画 日の名残り(1993英) [日記(2010)]
『上海の伯爵夫人』が面白かったの引き続きでジェームズ・アイヴォリーです。
また何と古風な映画ですか!。1920~30年代のイギリス上流階級の執事(butler)とハウスキーパー(housekeeper)の話しです。執事と言うのは言葉としては知っていましたが、すごいものです。執事に対するハウスキーパー(字幕では女性スタッフ・・・古風に言えば女中頭)という職業も初めて知りました。
<<執事>>
男性使用人の監督、灯りの準備、戸締まり、火の始末など全体的な管理業務も行う。
主人への給仕とそれに関連した食器類、酒類の管理
<<ハウスキーパー>>
執事が主人に仕えるのに比べ、女主人に仕え女性使用人を管理・統括する。
食料品貯蔵室の鍵を持ち食料、リネン、高価な陶器を管理。
こういう予備知識を仕入れて見ると面白いかもしれません(Wikipedia)。
映画は、『ダーリントン・ホール』の執事スティーヴンス(アンソニー・ホプキンス)を主人公に、第二次大戦前夜の回想と現在(1950年代)が描かれます。
タイトルの『日の名残り』は夕刻、黄昏時のことですから、初老を迎えたスティーブンスの人生の黄昏、彼の主人であったダーリントン卿と『ダーリントン・ホール』の黄昏を描いていることになります。これは、第一次大戦の敗者ドイツに政治的に応援し、戦後ナチ同調者として失意の内に死んだダーリントン卿、『ダーリントン・ホール』を舞台に繰り広げられた旧世代(あるいはヴィクトリア朝的なもの)への鎮魂歌とも云えます。
スティーブンスは執事としては超一流、使用人の頂点に君臨し仕事一筋の人生を送っています。唯一のつまずき(悔い)がハウスキーパーであるケントン(エマ・トンプソン)とのことです。一流の執事ですから仕事上はつまずきません。つまずきは、スティーブンスの内部のつまずきです。ケントンの話しぶりや仕種を見れば、彼女がスティーブンスンを慕っていることは一目瞭然で、彼自身そのことは十分に分かっているのです。分かっているのですが、執事としての誇りがそれを許さず、やせ我慢して冷たくあしらうわけです。そこまで言われてシラを切るの?と言いたくなるります。この辺りのアンソニー・ホプキンス演技は見せます。ケントンはスティーブンスへの当て付けのように結婚し、『ダーリントン・ホール』を去ります。
『ダーリントン・ホール』の主人も代わり、スティーブンスは25年経ってその過ちに気がつき?、ケントンの住む西海岸へ出かけます。人生の黄昏を迎えたふたりが25年ぶりに出会うシーンは心に浸みます。ケントンは『自分の人生は誤りではなかったか?』と言い、スティーブンスは『人は皆、後悔するものだ』と言います。夕陽の沈む桟橋でケントンはつぶやきます。
一日のうちで一番美しいのは夕暮れ
結局、西海岸への旅行は何事もなく終わり、スティーブンスはまた『ダーリントン・ホール』で新しい主人(アメリカ人!)に使えるの日常を取り戻します。ラストに、部屋に迷い込んだ鳩を窓から逃がすシーンが用意され、無事窓から飛び立った鳩の視線、『ダーリントン・ホール』のロングショットで映画は終わります。
事件も起こらずこれといったドラマもありません。淡々としたなかに味わいのある映画です。中年向きですね。
カズオ・イシグロは『上海の伯爵夫人』で脚本を担当しましが、こちらはブッカー賞を受賞した彼の小説『日の名残り』の映画化です。
エマ・トンプソンは初めてだと思ったのですが、『ハリー・ポッター』シリーズに登場する、度の強い眼鏡をかけたホグワーツの魔女ですね。
監督:ジェームズ・アイヴォリー
原作:カズオ・イシグロ
出演:
アンソニー・ホプキンス
エマ・トンプソン
ジェームズ・フォックス
クリストファー・リーヴ
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