映画 硫黄島からの手紙(2006米) [日記(2010)]
『父親たちの星条旗』の裏版にあたります。同じ事件を複眼で描くという試みは過去に無かったと思います。もっとも、『父親たちの星条旗』は硫黄島の戦闘よりも、3人の兵隊の戦後に力点が置かれ、『硫黄島からの手紙』は硫黄島守備隊長・栗林中将と将兵にスポットを当てていますから、まるっきり表裏の関係というわけではありません。
硫黄島の戦闘は、1945年2月16日に米軍の上陸が始まり3月15日に終結し、日本軍戦死者は2万名(生存率4%)、米軍戦死者も6,800名にものぼり激戦だったことがうかがわれます。
映画は、大宮のパン屋・西郷一等兵の眼で、日本軍の将兵と栗林の司令官像が描かれています。現実逃避の空疎な精神論、兵卒に玉砕や自決を強要する野蛮さなど、アメリカ人によって日本軍がそれらしく描かれ、それを見るのは苦痛です(たとえそれが真実の姿であっても)。
この映画の構造は
・西郷一等兵・・・一兵卒、庶民
・栗林中将、西中佐・・・西洋という文明と精神に触れた合理主義者
・中村獅童演じる海軍大尉を代表とする国家主義者
ハーバードに学び駐在武官を経験した栗林と、馬術競技でヨーロッパを転戦しロサンゼルス・オリンピックで金メダルを獲った西は、欧米人の理解しやすい人物として描かれています。栗林は消耗戦を予想し硫黄島を地下要塞化する合理主義者、西は負傷した米兵を助けるヒューマニスト、摺鉢山から敗退し本隊に合流しようとした西郷達を命令違反で殺そうとする中村獅童演じる海軍大尉は、日本軍のカリカチュアでしょうか。
これはそのまま、西郷一等兵の視線であり、制作者の視線でもあるわけです。
あなたは西郷一等兵ですか、栗林中将ですか、海軍大尉ですか?と問われているんでしょうか?
監督:クリント・イーストウッド
出演:
渡辺謙
二宮和也
中村獅童
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