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読書 杉山隆男 「兵士」になれなかった三島由紀夫 [日記(2010)]

「兵士」になれなかった三島由紀夫 (小学館文庫)
 三島由紀夫が亡くなって今年で40年になります。『兵士に聞け』以後自衛隊をルポし続けてきた著者杉山隆男のシリーズ最終巻です。三島の自衛隊体験を描くことで、自衛隊とは何だったのかを自分自身に突きつけています。
 三島は、何度も自衛隊に体験入隊しています。三島と接した自衛官を取材し、当時三島由紀夫が自衛隊で何を語りどう行動したかが生々しく描かれています。

 三島はボディービルで鍛えた筋骨隆々たる肉体を誇示していましたが、鍛えられた上半身に比べ下半身はみすぼらしく、走るということが大の苦手だったようです。マラソンでは常に100m、200m遅れ、自ら志願して臨んだロープ渡りでは、下半身の弱さが露呈しロープから外れ命綱で中吊りとなる失態を演じます。これらのエピソードは三島を揶揄する格好の材料ですが、苦手を克服しようとする姿やロープ渡りでは失神寸前まで渡ろうと努力する姿に、自衛官達同様、我々ももうひとりの三島由紀夫に出会うこととなります。

 とりわけ印象深かったのは、円谷幸吉と三島由紀夫の対比です。富士、幹部レンジャー教程で三島の教官となった自衛官は円谷幸吉を指導した教官でもあり、このふたりを比べています。
 円谷幸吉は、東京オリンピックのマラソンで銅メダルを取り、次のメキシコ五輪で金メダルを期待されながら、『もう走れない』と自殺をとげた自衛官です。この円谷は、走ることは得意であったが全くのカナズチで、水泳の訓練で円谷は沈む様に溺れたということです。

 人生色々とうそぶく為政者や金さえあれば何でもできると天に唾する虚業家が持てはやされ、いつの間にか勤勉であり実直あることの尊さ、そのたたずまいのすがすがしさが省みられなくなった日本と日本人に、それ(三島事件)は重たいしこりとなって、腹の底を拳で叩きつけるように、いまも問いかけを鋭く放ちつづけてくる。
 三島がなお生きているというのは、まさにそういうことなのだろう。

 三島由紀夫が市ヶ谷の自衛隊に乱入し割腹自殺をとげた1970年11月25日、あなたは何処で何をしていましたか?あれから40年、2010年11月25日、あなたは何処で何をしていましたか?あなたの40年は何だったのですか?そう問われているようです。

タグ:読書
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