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読書 海老沢泰久 美味礼賛 [日記(2010)]

美味礼讃 (文春文庫) 辻調理師専門学校の創始者辻静雄の評伝です。新聞記者であった辻は、義父の始めた割烹学校を継ぎ、そこでフランス料理に出会います。正確には、三千種類のフランス料理を紹介した『ラルース・ガストロミック』や食べ歩きの『Bouquet de France』と出会い、オムライスやトンカツが西洋料理であった昭和30年代に書物の上で鴨のオレンジ煮やトリュッフのパイ包み焼きなどと出会ったわけです。ここから、フランス料理を日本に移植するという辻の仕事が30年以上にわたって続きます。

 フランス料理を日本に移植するために辻が取った手法は、食べること。新聞記者の給料20年分(昭和36年当時)の500万円を持ってフランスに出かけ、パリの三つ星レストラン4軒と二つ星レストラン20軒を始めとして食べ歩き、フランス料理を舌に覚え込ませます。読んでいる方はヨダレが出そうな話ですが、食べると云うことが義務となった辛さはいくら
美食とは云え苦行ですね。

 『ラルース・ガストロミック』や『Bouquet de France』の著者を訪ね、その紹介で次々と三つ星レストランのオーナーやシェフの知遇を得ていく様は、なかなか感動的です。フランスの料理界で辻が何故かくも優遇されたのか不思議ですが、フランス料理を日本に移植するという情熱が彼等を動かしたという他はありません。後年彼等を日本に招聘し、日本の調理技術と料理文化を

 フランス料理にとっては今は明治時代にも等しい、という会話があります。まさに、官民挙げて西洋の技術と思想を学んだ明治初年の熱気が本書から伝わってきます。
 美食を仕事とした辻は、来る日も来る日も濃厚な料理を食べる苦しみと、美食がもたらした肝臓病により60歳で逝きます。美食に殉じたわけです。
 小説の形をとったノンフィクション、ノンフィクションめいた小説、どっちなんでしょう。文章も平易で淡々とした記述は大変読みやすいです。
タグ:読書
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