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映画 ファイト・クラブ(1999米) [日記(2011)]

ファイト・クラブ [DVD]
 ジャンルで言うと、アクションでもないしヒューマンでもない。当然ラブストーリーでもなく、やはりサスペンスなんだろうか、それも少し違う・・・と一筋縄ではいかない厄介な映画です。

 主人公エドワード・ノートンのナレーションで成り立っている映画で、たぶんこれがこの映画のミソです。大手自動車会社に勤め高給を得、イケアの家具や高級オーディオセットに囲まれて暮らす30歳の独身男が、不眠症を治すために出入りするのが、『睾丸癌患者の会』や『何とか感染症患者の会』『末期癌患者の会』みたいな、患者が自分の病状を公開し合ってお互いを慰め合う『会』。この会で、睾丸を取り去ったボブの胸で同情の涙を流し、主人公は数ヶ月ぶりの安眠を取り戻すことが出来たわけです。
 主人公はもちろん健常者です。高給を得、北欧家具や高級オーディオセットに囲まれて暮らしていようが、心には『睾丸癌患者』『何とか感染症患者』『末期癌の患者』同様の空洞があり、これらの『会』で同病相憐れむ癒しによってこの空洞が満たされるという構図です。『会』に参加することで生き甲斐を再発見するわけです。『睾丸癌患者の会』は別にして、このシチュエーションはよく分かります。

 『会』のハシゴをするうち、同じ目的で『会』に参加するマーラ(ヘレナ・ボナム=カーター)と出会います。マーラと出会うことで、主人公は自分が健常者であることを思い知らされ、同病相憐れむ癒しが獲得出来ず、不眠症がぶり返します。

 ここに登場するのがタイラー(ブラッド・ピット)。主人公はタイラーと知り合い、ふたりは男同士が素手で殴り合う『ファイト・クラブ』を結成、むき出しの闘争心の燃焼で不眠は解決され、新たな生き甲斐を得ます。この殴る、殴られる癒しは、次第に同好者を集め『ファイト・クラブ』は大きな組織へと発展してゆきます。これだけでは、街のボクシング・ジム、スポーツクラブで発散させることと何ら変わりがありません。決定的に違うのは、『ファイト・クラブ』の格闘はスポーツではなくダメージを生む格闘だということです。社会的なルールを取り去った(素手、ギブアップで終了するというルールはあるが)アナーキーな闘争だということです。『ファイト・クラブ』は暴力的な映画ではないという意見が見られますが、暴力的で、特に社会システムへの憎悪と破壊力に満ちた映画だと思います。

この映画を観たスタンリー・キューブリックはチラシのコメントで「現代の『時計じかけのオレンジ』」だと絶賛した。

というのがこれを雄弁に物語っています。『ファイト・クラブ』の発展した『スペース・モンキー』の最終ターゲットが、銀行、クレジットカード会社のビルの爆破なんですから、これはもう明確なテロです(従業員を非難させたとか言ってますが)。2001.9.11以降であれば成り立たなかった映画でしょう。

 よくある論議です。
 ネタバレですが言ってしまうと、主人公=タイラーで、二重人格ですね。不眠症に陥る軟弱な主人公の裏返しの人格がタイラーです。エドワード・ノートンが優柔不断に戸惑っているあいだに、もうひとりの人格ブラッド・ピットがヘレナ・ボナム=カーターをモノにし、各地で『ファイト・クラブ』を組織し『スペース・モンキー』を作ってテロを敢行するというのは、私たちの心の奥底にある暴力衝動、アナーキーなものの象徴です。
 もうひとつ、主人公の名前は最後まで明かされません(エンドクレジットでは、エドワード・ノートンはナレーターだそうです)。名無しの主人公=Anonymousですね。映画が主人公の一人称によるナレーションで成り立っており、タイラーも二重人格の虚像であるわけですが、主人公以外すべてが夢まぼろし、幻想という可能性もあるわけです。夢から覚めるために、主人公は拳銃を口に入れて自殺を図ります。もっとも確実な自殺の方法で、死んだはずの主人公が生きていること自体、この物語が虚構の証拠でしょう。
 映画は、金融街のビルが爆発で次々と崩壊する様をエドワード・ノートンとヘレナ・ボナム=カーターが手をつなで見入るシーンで終わります。ふたりのいるビルにも爆弾がセットされており、ふたりにも未来は無いわけです。この後、主人公が自宅のベッドの上で目を覚ますシーンがあっても不思議ではありません。

ファイト・クラブ (ハヤカワ文庫NV)
 チャック・パラニュークの原作があるようです。絶版ですが読んでみたいものです。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演者:エドワード・ノートン ブラッド・ピット ヘレナ・ボナム=カーター


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