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読書 山本兼一 利休にたずねよ [日記(2011)]

利休にたずねよ (PHP文芸文庫)  史上有名な利休の『賜死事件』をテーマとした小説です。利休は、大覚寺山門に自身の木像を掲げたこと、高額な茶器を売りつけて私腹を肥やしたことなどで、秀吉の勘気に触れ切腹させられます。これは、最高権力者である関白秀吉が、自分になびかず、茶道においては秀吉を凌駕し君臨する利休に対する私怨だと考えられてきました。弟子とは言え、前田利家、古田織部、細川忠興ら大名が助命嘆願し、死後、家康の運動で利休の長男である道安と、娘婿・少庵が復活していますから、当時も利休は被害者であり、事件は秀吉の私怨であると考えられていたのでしょう。
だいたいあの男は、目つきが剣呑で気に食わぬ。首のかしげ方がさからしげで腹が立つ。
黄金の茶室といい、赤楽の茶碗といい、わしが、いささかでも派手なしつらえや、道具を愛でると、あの男の眉が、かすかに動く。
そのときの顔つきの高慢なことといったら、わしは、生まれてきたことを後悔したほどだ。まこと、ぞっとするほど冷酷、冷徹な眼光で、このわしを見下しおる。
-下賎な好み。
・・・
なぜ、あの男は、あんな嫌みな眼をする。
なぜ、あの男は、あそこまでおのれの審美眼に絶対の自負をもっているのか。
悔しいことに、あの男の眼力は、はずれたことがない。

秀吉の利休評です。秀吉が利休に追い詰められ、窮鼠となって反撃に出たのが『賜死事件』です。天下人・秀吉が利休に追い詰められることなどあり得ないわけです。島津攻めや北野大茶会など、秀吉が天下を取るまではふたりの関係は良好ですが、天下統一をなし秀吉が太閤となる辺りからふたりの関係はおかしくなります。茶の湯が大名間の利害調整の場であった時代、ふたりの利害は一致しますが、敵対する大名が消え、これが、純粋の思想的課題、芸術的表現となった途端、利休・秀吉は棲む世界を異にします。いっぱしの茶人を自負していた秀吉は、利休的世界から疎外されたわけです。その嘆きが上のような独白となり、秀吉は利休を殺すことでからくも精神のバランスを保ったわけです。

 カトリックの司祭ヴァリニャーノに、高額な茶器とそうでないものの差を聞かれた利休の答えがふるっています。

それは、わたしが決めることです。わたしの選んだ品に、伝説が生まれます
ヴァリニャーノは、老人の言葉に、美の司祭者としての絶対の自信を聞き取った。

利休世界の極地です。I'm Lejend、唯我独尊です。

 物語は、利休切腹の日を冒頭に置き、過去へ遡るスタイルをとり、利休本人、秀吉、細川忠興、古渓宗陳、徳川家康、石田三成などを狂言回しとする24のエピソードから成り立っています。秀吉の勘気をこうむり切腹させられる利休があり、こうした運命に立ち至った経緯、茶人・利休の成り立ちがあぶり出されるわけです。小道具として『緑釉の香合』が使われ、若き日の利休の恋が色を添えます。

タグ:読書
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