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映画 秋刀魚の味(1962日) [日記(2011)]

秋刀魚の味 [DVD]  一昔前のTVのホームドラマを見ている様な錯覚におちいります。居間でちゃぶ台を囲んで食事をしながら、家族がとりとめもない会話をし、ささやかな事件に庶民の哀感を描いた「ホームドラマ」です。60年代~70年代に飽くことなく見させられた「ホームドラマ」の元祖は、この辺りにあるのでしょうね。

 「秋刀魚の味」の時代設定は、映画公開と同時期、日本が敗戦から復興し落ち着きを取り戻した昭和30年代です。主人公・平山の長男・幸一(佐田啓二)の生活を見るとよく分かります。住まいは「団地」で冷蔵庫や掃除機が普及しだし、たまの日曜日にはゴルフに出かけるという「背伸びした」生活が描かれています。この「背伸びした」生活をするために妻(岡田茉莉子)と共働きで、幸一が先に帰った日は自ら夕食の準備をし、ゴルフクラブは中古を分割で購入、冷蔵庫を買うために父親から借金しなければならないという生活です。
 一方、平山(笠智衆)は旧制中学から官軍兵学校に進み、艦長で終戦をむかえ、今は実直なサラーマン。妻を亡くし、長男は結婚して独立、次男は学生、長女路子(岩下志麻)は働きながら平山家を支える「主婦」。そこには、大正、昭和と流れてきた伝統的な家族の営みがあります。

 このふたつの家庭を舞台に物語は進行しますが、事件らしい事件は何も起きません。些末な出来事に流されて行く庶民の日々を、独特のローアングルから捉えた映像で淡々と描いていきます。

 物語は、女性が家事の中心であり、子が親の面倒を見るという日本の伝統(この伝統は幸一に於いては崩れつつあります)の中で婚期を逸しつつある路子をめぐる物語であるとも言えます。
 路子の結婚というささやかな「事件」は、平山が出席した旧制中学の同窓会をきっかけに起こります。同窓会の主賓である漢文の教師「ひょうたん( 東野英治郎 )」を自宅に送り届け、そこで平山は、かつて厳格であった「ひょうたん」が一人娘(杉村春子)とともにラーメン屋を営み、「ひょうたん」が妻を亡くした後、娘を便利に使っている間にふたりとも老い、展望の無い生活を送っていることを知ります。酔った東野英治郎とその姿を見て泣く杉村春子の演技は胸に迫るものがあります。平山は、この「ひょうたん」と娘に、平山は自分と路子の未来の姿を重ね、路子の縁談を積極的に進めようとします。

 路子は結婚し、結婚式で路子を送り出した平山の「感慨」で、映画は幕となります。2011年の今日の目で見ると「話しとしてはこれだけ」です。「秋刀魚の味」というホームドラマの「凄み」は、1962年~2011年の半世紀起こる「家族」の姿を予言していることかもしれません。娘を嫁がせてひとりとなった父親の感慨は何も今に始まったことではありませんが、日本が高度成長期にある1962年に、敢えて伝統的な家族の崩壊を描いたことに意味があるのでしょうか。

 主演は「御前様」笠智衆です。他にも懐かしい俳優さんが沢山出演しています。東野英治郎の演技は絶品です。平山の同級生を中村伸郎と北竜二が演じていますが、笠智衆を加えたこの三人のボケと突っ込みは秀逸です。
 
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監督:小津安二郎
出演:笠智衆 岩下志麻 佐田啓二 岡田茉莉子 東野英治郎 杉村春子 中村伸郎 北竜二

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コメント 4

さすらい日乗

この映画の中学の教師東野英治郎が、娘の杉村春子を中華料理屋で使ってしまっために婚期を逃したというのは、おかしくありませんか。1960年代には、年金制度や退職金もあったのになぜ東野は、退職後に再度働くのでしょうか。これは明らかに時代に合っていないのです。
実は、この映画は戦前のサイレント映画『東京の合唱』のリメイクだったからです。そこでは学校をクビになった教師の斎藤達雄は、職探しの末に自分でカレー屋を開業するのです。当時は、年金、退職金もなかったので、その筋は当然だったのですが。

もう一つ、不思議なのは、岩下志麻の相手が一度も出てこないことで、『晩春』も同じなのです。その理由は、非常に興味深いものだと思います。
by さすらい日乗 (2015-08-17 21:19) 

べっちゃん

ご指摘ありがとうございます。
この映画は、婚期を逸しつつある娘とそれを心配する父親の物語だったと思います。娘の結婚に焦点をしぼるために、東野英次郎と杉村春子父子が登場するわけです。多少現実味を欠いているかも知れませんが、構成上のデフォルメでしょうね。
娘の相手が登場しないのは、どんな理由があるにでしょう。全く気になりませんでした。
数年前に見た映画なので、記憶が曖昧ですが。
by べっちゃん (2015-08-18 07:28) 

さすらい日乗

どういう理由なのでしょうか。
私の拙書『小津安二郎の悔恨』(指田文夫 えにし書房)に書いてありますので、お読みいただければ誠に幸いです。
もうアマゾンで入手できます。
by さすらい日乗 (2015-08-18 22:07) 

べっちゃん

機会がありましたら...。
by べっちゃん (2015-08-19 18:51) 

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