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映画 パパは、出張中!(1985ユーゴスラビア) [日記(2013)]

パパは、出張中! [DVD]
 タイトルが『パパは、出張中!』で主演が子供だというので、てっきりアノ手(幾分はソノ手?)の映画かと思って見ましたが、見事裏切られました。ユーゴスラビアの映画で、チトーが率いた1950年代のユーゴスラビアのサラエボに住む一家を、当時の政治情勢とからめて描いています。ちなみにユーゴスラビアは、コソボ紛争、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で解体され、現在ではスロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、セルビア・モンテネグロとなっています。多民族が複雑にからみあった「ヨーロッパの火薬庫」バルカン半島ですね。
 第二次世界大戦後、ユーゴスラビアはチトーの率いる共産党が支配する社会主義国となりますが、1948年にソ連と袂を分かち西側に寄り添った独自の社会主義国として出発します。映画の後半(1952年)で、登場人物に“民主主義は金だ”とか言わせているのもそういう背景があるのでしょう。ユーゴスラビアに自由の風が吹き始める頃の話しです。

 1950年のサラエボ、お父さんメーシャ(ミキ・マノイロヴィッチ)、お母さんセーナ(ミリャナ・カラノヴィッチ)、お兄ちゃんとぼくマリク(モレノ・デバルトリ)、お祖父ちゃんの5人家族の2年間を描いています。
 スターリンの支配するソ連とは違いますが、社会主義国ですからそれなりに警察機構が国民の思想を統制しています。ある日突然にお父さんメーシャは捕まって労働キャンプに送られます。この父親の不在を、お母さんはお兄ちゃんとマリクに、『パパは、出張中!』だと説明しています。『パパは、出張中!』というタイトルに、それなりの皮肉が込められているわけです。

 このパパのメーシャですが、なかなかの強者。妻と二人のかわいい息子がいるにもかかわらず小学校の体育教師アンキッツァを愛人にし、離婚しておまえと結婚するなどといい加減な約束までしています。『パパは、出張中!』は、次男の少年マリクの視線で描いたパパのメーシャの物語でもあります。
 一家の稼ぎ手が逮捕されたのですから、ママのセーナはミシンを踏んで生活を支えます。労働キャンプにいるメージャに面会に行ったり、後には家族が移住して親子四人での生活も始まります。この辺りは、『チャイルド44』『グラーグ57』(ミステリ小説)で描かれたソ連の国家警察や収容所とはずいぶん違います。親子4人で暮らすユーゴスラビアの“労働キャンプ”は全くの自由で、仕事中に上司と酒を飲んでチェスを指したり、買い出し名目でいかがわしい場所(社会主義国にもあるんだ)に行ったりで、やりたい放題。それを知ったママ・セーナはヒステリーを起こし、マリクは潔白を証明するためにいかがわしい場所に連れて行かれたりで、親の面倒を見るのに大変。こういう時にマリクに起こるのが夢遊病。夜中にフラフラと出かけ、周りは大騒ぎとなります。精神的ストレスによって起こる病気らしいですが、マリク少年も苦労しますね。 
 やがて、メージャの品行方正で国家への忠誠心が評価されたのか、上司をいかがわしい場所に連れて行ったことが幸いしたのか、ともかくもメージャは許され一家揃ってサラエボに帰ります。

 ラストで、メージャが逮捕された理由が明かされます。
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 これです
 
何か変だとは思いません?。この挿絵は前半にも登場しますが、気が付きませんでした。そもそもマルクスの書斎にスターリンの肖像画が架かっているわけはないですね、その逆ならありえますが。この挿絵をメージャが批判したことが、愛人アンキッツァの口から当局に伝わり逮捕となったようです。最大の皮肉ですね。
 
 全編に“ドナウ河のさざなみ”が流れ、(たぶん)ユーゴスラビアの民謡が唄われ、人々は飲みかつ喰い踊ります。共産主義も自主管理社会主義もスターリンもチトーも泡沫の様なものなんだ、という映画ですね。
 もうひとつ、この映画で見逃してはならないのが、マリクが割礼されるシーンです。なんと、床屋さんが割礼するんですが、こういうシーンは初めて見ました。 

 1985年の映画ですが、画面が暗く荒れています。そういう演出なのか思ったのですが、ユーゴスラビアの紛争によって原盤が失われ、VTRか何かからDVDに起こした様です。
 でお薦めかと云うと、ドラマに乏しい画質の悪い映画を2時間超見ることになりますが、先日の『ペレ』が面白かった方にはお薦めですね。
 
監督:エミール・クストリッツァ
出演:モレノ・デバルトリ ミキ・マノイロヴィッチ ミリャナ・カラノヴィッチ

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