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映画 仁義なき戦い(1973日) [日記(2013)]

仁義なき戦い [DVD]
 いわゆる「実録もの」の走りです。当時、ヤクザ映画はけっこう好きで『昭和残侠伝』『緋牡丹博徒』『日本侠客伝』などを見ていましたが、『仁義なき戦い』を見てぶっ飛びました。これまでのヤクザ映画は、「任侠」を日本的美学で描いた世界で、見ている方はその形式美に酔うわけです。こちらは文字通り「仁義なき」世界のリアリズムを前面に押し出します。障子に血しぶきがかかる情緒的殺陣から、片腕をぶった切り指を詰める世界に変わります。これは新鮮でした。

 ストーリーは、呉、広島で起こったヤクザ組織の抗争を、その渦中にいた人物の手記に基づいたもので、映画そのものに主義主張があるわけではありません。ノンフィクションのようなもので、アウトロー達の切った張ったの世界をそのまま映像化し「これでどうだ!」、後はアンタ達観客の判断。あえて言えば、戦後日本の復興期が生んだ若者の暴走と、暴走の果ての虚しさみたいなものでしょうか。

 組のno.2に登りつめた 松方弘樹が 菅原文太に しみじみ呟きます。夜になると虚しくなって足を洗おうかと思う、朝になって若い奴らの顔を見るともうそんなことは忘れてしまっていると。 また、何処でどう間違ってしまったのか、あの親(分)から盃を受けたのが間違いのもとだったと。ふたりは、焼け跡の闇市で出会い、ともに組を背負ってきた盟友です。そのふたりが、敵味方に分かれて命のやり取りをする状況下でのこのつぶやきは、意外と封切られた1973年頃の観客の本音かもしれません。
 焼け跡から朝鮮戦争特需を経て立ち直る日本と、裏社会で反社会的勢力が復興拡大してゆく姿がセットになっています。表社会の軋みがそのまま裏世界で拡大される、そういう構造かと思います。

 松方弘樹と菅原文太は焼け跡の闇市で出会い、ともに金子信雄の山守組に入ります。エピソードは様々に描かれ魅力的な人物が次々に登場しますが、つまるところ、この三人が映画の軸です。金子信雄は、敵と手を結び仲間を売り子分から搾取して成り上がって行きます。苦況に陥ると泣きが入り、この演技に騙されて菅原文太はドロを被って刑務を出たり入ったり。no.2の松方弘樹は金子信雄の正体に嫌気が差し、引退を強要し自分の組を立ち上げますが、金子の放った刺客に殺されます。

 ヤクザ同士の抗争「仁義なき戦い」は、ほとんどが金子信雄の「仁義なき」言動から生まれています。そして、それに振り回されるのが菅原文太と松方弘樹で、描かれているのは「仁義」なき世界で擦り切れてゆくふたりの「仁義」です。
 利権を漁り事業家として成功した金子、金子と袂を分かち自分の「仁義」を守った菅原、金子に反旗を翻し金子同様に「仁義なき戦い」に果てた松方。大げさに言えば、この映画には戦後の日本20年が描かれていると言ってもいいでしょう。
 金子に殺された松方の葬儀に菅原が現れます。菅原は祭壇に拳銃をぶっ放し、松方の遺影に向かって、これでいいのか、これで満足かと問いかけます。1973年、菅原文太は観客に向かって「これでいいのか、これで満足か」と問いかけたことになります。
 戦後日本の荒廃を駆け抜けた青春群像を描いた傑作、かもしれません。

 数十年ぶりに見ましたが、面白かったです。お薦めとは言いませんが、団塊の世代の方はどうぞ。

監督:深作欣二
出演:菅原文太 松方弘樹 梅宮辰夫 金子信雄

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