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児島 襄 誤算の論理(1990文藝春秋) [日記(2013)]

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 ハードカバーの方には副題があり、「戦史に学ぶ失敗の構造」です。
 冒頭の「維新の誤算 西郷隆盛の影」です。維新政府が担いだ西郷隆盛が西南戦争で逆賊となった「誤算」だと、誰でも思います。著者が目をつけるのは、私学校の青年に担がれた西郷の「度量」だと云うのです。西郷は暴発する私学校の生徒に「おいの身体をあげもうそ」と命を預けるわけです。西郷は敗れ自決しますが西郷は英雄として生き続け、そこから西郷型とも云うべき日本的リダーシップの思想が生まれます。曰く、「人徳による統帥」です。

 西南戦争の後、政府は陸海軍の充実に努め人材育成を図ります。その要請で編まれた「統帥綱領」に、この「日本的リダーシップの思想」が濃厚に現れています。

 軍隊指揮ノ消長ハ、指揮官ノ威徳にカカル

威徳の中身は、「高邁ノ品性」「公明ノ資質」「堅確ノ意志」「卓越ノ識見」「非凡ノ洞察力」「無限ノ包容力」だというのです。

 一方、「指揮官にすべての権限と権威を集中させ、リーダーすなわち組織だ」とする欧米のリーダーシップとして、著者は第二次世界大戦の米軍パットン大将の言葉を引用しています

 リーダーシップは、自信の双生児である。自信は、自分がなにをしたいかを知り、それを実行し、邪魔する相手がいたら激怒して追い払うことから生まれる

 リーダーシップが、日本では威徳であり、欧米では自信(唯我独尊)だというのです。そしてこのリーダーシップ思想の「影」が、西郷以降日本の陸軍の指揮官の間に蔓延り、上下の秩序を乱し2.26事件へ至る、と云うのです。
 つまり、「無限ノ包容力」によって甘やかされた青年将校が上級者を飛び越して「蹶起」したというのです。これは、担ぐべき西郷隆盛がいなかった「西南戦争」ではないかと言わんばかりの書きっぷりです。

 この日本的リダーシップというものは、今もそこここで見受けられます。強いリーダーシップで指示を出す上司より、「無限ノ包容力」で適宜やれと云う上司の方が評判がいいようです。前者の部課長なんかは、大体ハシゴを外されますね(笑。
 件のパットン大将は、最後の『政治と軍事」の誤算 パットン将軍の死』に登場し、その硬骨、偏屈ぶりを知ることが出来ます。アイゼンハワー(ヨーロッパ戦線の最高指揮官)もこういう部下を持ちたくなかったでしょう。パットンは1945年にドイツで自動車事故で亡くなりますが、未だに暗殺だという噂が絶えないそうです。ハシゴ外されたのかも知れません。

 と云う様な話が洋の東西合わせて11詰まっています。いずれも50ページ前後のエッセー風の読み物で、図表もあって読みやすく面白いです。が、絶版!

維新の誤算 西郷隆盛の影
「王」たちの誤算 ヒトラー支援
アメリカン・デモクラシーの誤算 ルーズベルトの理想
「平和国家」の誤算 フランスの"栄光"
「菊と刀」の誤算 日米関係の起点
靴と刀の誤算 日本的戦術思想の固定
陸海軍並立の誤算 国防力の分裂
暗号と情報の誤算 戦略の屈折
諜報の誤算 政略の弱化
「組織と人」の誤算 個人の否認
「政治と軍事」の誤算 パットン将軍の死

タグ:読書
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