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読書 浅田次郎 天国までの百マイル [日記(2013)]

天国までの百マイル (朝日文庫)
 浅田次郎には、『終わらざる夏』など、作家としての力量を世に問う長編と、余技?として自分でも楽しんで書く中短編があります。『お腹召しませ』、『憑神』まどと同様、本書は明らかに後者です。
 浅田センセイの頭の中には、こうしたプロットがいっぱい詰まっていて、「センセイ、面白い短編をひとつ」とか雑誌社から頼まれると、やおらこのプロット集からこれはというものを引っ張り出して、傑作をものにされるわけです。センセイが心を砕かれるのは、いかに読者を“泣かせる”かということではないかと思われます。

 この『天国までの百マイル』も“泣かせる”工夫が各所にはりめぐらされています。「母子家庭」「貧乏」「挫折」「無償の愛」などなど。

 貧しい母子家庭で育った主人公がバブル崩壊とともに落ちぶれます。自己破産し妻子に去られ、学生時代の友人の情けにすがってようやく生きているというなかで、天使のような女性に出会います。デブでブスで年増で、「デブフェチ」以外誰も興味を示さないような場末の酒場のホステス・マリ。給料は子供の養育費に右から左に消え、マリに養って貰っているありさまです。
 この主人公の中年・安男が、心臓病で明日をも知れぬ母親を救けるという「親孝行」の話です。今どき「親孝行」など流行らないですが、浅田センセイのマーケットの年層はけっこう高いですから、受ける筈です。毎日出版文化賞に輝いた『終わらざる夏』など、太平洋戦争の話しです。

 安男の4人兄弟は、父親を早くに亡くし母親の手ひとつで育てられたという設定です。長男は一流大学を出て商社マン、次男は医者、長女は一流銀行の支店長婦人。末っ子の安男だけが出来が悪く、三流私大を出て不動産会社で営業をやっていたのですが、バブルの波に乗って世田谷に御殿を建てるまでに大出世。バブルが弾けて自己破産というお決まりのコースをたどってホステスに養われるまで落ちぶれます。
 入院して重篤の母親を、優秀な兄姉は見舞いにも来ず、落ちぶれた安男が周囲の善意に助けられて母親を救けるという涙々の物語です。病院も見放した母親をワゴン車に載せ、唯一の受け入れ先であるカトリックの病院までの100マイルを走ります。母親は助かりますから天国へは行きませんが、これがタイトルの謂れです。

 安男を支えるのが「デブフェチ」のマリ。安男はマリに惚れているわけではなく、都合のいいヒモを演じてきたわけですが、100マイルを走り抜ける間にマリへの愛に目覚めるわけですね。母親の手術が無事成功し、都内のアパートに戻ると、マリは消えていたというオチがつきます。

 いやもう、読んでいる方が恥ずかしくなるほどのベタベタの人情劇です。ですが、最後まで一気に読ませるのは、浅田センセイの職人技ですね。

タグ:読書
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