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映画 ミッドナイト・エクスプレス(1978米) [日記(2013)]

ミッドナイト・エクスプレス [DVD]  原題:Midnight Express。ミッドナイト・エクスプレス(深夜特急)とは、刑務所の囚人たちの隠語で、脱獄を意味する言葉だそうです。脱獄、脱走を描いた映画というと、『大脱走』『パピヨン』『ザ・ロック』『暴力脱獄』『第十七捕虜収容所』なんていうのがあります。これらの脱獄、脱走には、大義名分というのが存在するのですが、『ミッドナイト・エクスプレス』には、これがありません。
 1970年のトルコ・イスタンブールで、大麻(ハッシシ)を密輸しようとして捕まった青年の脱獄話です。犯罪を犯したわけですから捕まって当たり前、同情の余地はあまりない、というのが正直なところで、これは最後までついて回りました。実話だそうです。

 主人公のビリー(ブラッド・デイヴィス)は、恋人と観光旅行中にこの密輸を企てます。アメリカ本土に持って行けば小遣い稼ぎになるという、まぁ軽い気持ちだったわけです。挙げ句の果てに捕まって、禁固4年半の判決を受け刑務所へ。ビリーの父親が面会に現れ愁嘆場を演じた挙げ句、「出してやる!」の一言になります。トルコでアメリカの青年が捕まったわけです。この父親は、トルコの看守に「オレの息子に酷い扱いをすればただではすまさない」みたいな暴言を連発。トルコのような後進国の官権が、世界に冠たるアメリカの青年を捕まえること自体が犯罪だ、言わんばかりで、我々の後ろには国務省が付いているという捨てセリフまであります。他国を見下す「アメリカ」というのが鼻につき、見ていて白けます。

 禁固4年なら何とか我慢できると考えたビリーは、おとなしく刑期を勤めます。ここで、トルコ刑務所の様子が描かれ、興味深いです。刑務所というと独房に監禁だと思いますが、当時のトルコでは大部屋に詰め込んで集団で生活させます。雑居房かというとそうでもなく、房の中にトイレもシャワーも食堂もあり、グラウンドに出てゆくのも自由という、環境劣悪の兵営みたいなものです。
 トルコの刑務所ですが、ビリーの様に外国人も収容されています。ほとんど麻薬中毒のマックス(ジョン・ハート)、燭台を盗んだために放り込まれ、脱獄を繰り返すジミー(ランディ・クエイド)→ジャン・バルジャンみたいで笑いますが。もうひとり、リフキという雑居房の雑用係が登場します。リフキは、刑務所から監視を兼ねて雑用を請負い、囚人にものを売るアルバイトを黙認されている?民間人だと思われます。もうひとり、サディストの看守リーダーも登場します。
 刑期も後53日になった時に突然裁判所に召喚され、やり直し裁判の結果30年の禁錮刑が言い渡されます。当時、トルコは麻薬供給国として国際的な非難を受けており、トルコ側としては麻薬がらみの事件には厳罰を持って臨むという政治的判断ですね。被告側から裁判のやり直しを請求する再審というのはありますが、検事による再審というのは聞いたことがありません。
 ビリーは、裁判で不当判決だとかなんとか毒づきますが、もうひとつ盛り上がりに欠けます、自業自得じゃないの?。20kgの麻薬の密輸で30年の刑が重いのかどうか分かりませんが、麻薬所持で死刑の国もありますねぇ。
 
 ということで「ミッドナイト・エクスプレス」に乗る舞台が整い、ビリー、マックス、ジミーの3人による脱獄物語が始まります。洗面所の壁の石を外して下水道へ脱出を図ります。これで脱獄が成功すれば、面白くもなんともありません。話はここからで、出口が見つからず一旦退却してまた明日、といううちに件のリフキに見つかって密告され、前科のあるジミーが捕まり、リフキの讒言によってマックスが拷問にあって半死半生。怒り心頭のビリーはリフキをこれも半死半生の目に合わせ、そ精神異常の囚人ばかり集めた特殊房に入れられます。トルコですから、ここも雑居房。周りが狂人ばかりですから、ビリーにも狂気の兆候が出始め...。
 ということで、ビリーは「何だそれは」という方法で脱獄に成功します。

 個人的には、脱獄に大義名分が無いことと、全編を通じて感じる「アメリカ目線」が気になって、冷めた眼で観てしまいました。このふたつが無ければ、トルコの監獄のリアルな描写、主人公ビリーを演じるブラッド・デイヴィスの熱演と、なかなかいい映画になったと思うのですが、どんなものでしょう。
 不思議にも、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、前者では脚色賞、作曲賞、後者では作品賞、助演男優賞、新人男優賞、新人女優賞、脚本賞、作品賞を受賞しています。ひょっとして、「アメリカ目線」が評価されたわけでもないでしょうね。ちなみに1978年のアカデミー賞は、作品賞、監督賞が 『ディア・ハンター』です。脚本が、オリバー・ストーンですねぇ。
 
 でお薦めかというと、この「アメリカ目線」と大義名分を問題にしなければ、面白いかも知れません。気になる私としては、あまりお薦めできませんが。 

監督:アラン・パーカー
脚本:オリバー・ストーン
出演:ブラッド・デイヴィス ランディ・クエイド ジョン・ハート

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月夜のうずのしゅげ

べっちゃんさんの映画理解は深く
これほどのものはまだ見たことがありません。
「神々と男たち」やその中にあった
「薔薇の名前」もDVDで見直しているところです。
by 月夜のうずのしゅげ (2013-09-11 08:16) 

べっちゃん

畏れ入ります。映画を見て楽しむということがだんだん無くなって、最近は「批評家目線」です(笑。邪道ですね。
最近「バラの名前」はいいですね、私も久々に見てみます。
by べっちゃん (2013-09-11 08:27) 

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