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BSシネマ ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 ディスタンス(1995米) [日記(2013)]

ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 [DVD]
 原題、Before Sunrise。一言でいうと、列車で知り合ったアメリカ青年とフランス女性が、ウィーンで途中下車し、一晩街を彷徨う話しです。よってタイトルは“ Before Sunrise。事件らしい事件もなく、全編、ウィーンの下町を、路地から路地を歩く男女の会話から成り立っています。

 ジェシー(イーサン・ホーク)は、マドリッドにいる恋人を訪ね、恋は終わったのではないかという思いで3週間ほどヨーロッパをほっつき歩き、明日のウィーン発の飛行機で帰るために列車に乗り合わせます。セリーヌ(ジュリー・デルピー)はブダペストのお祖母ちゃんを訪ねてパリに帰る途中です。隣の夫婦の会話がうるさいということでセリーヌは席を移動し、ジェシーと知り合います。
 会話が弾み、ジェシーは飛行機の時間まで付き合ってくれとセリーヌに頼み、ふたりはウィーンで途中下車をします。この口説き文句が秀逸です。

 セリーヌがジェシーとウィーンで1晩過ごすことは、未来からタイムトラベルだというのです。セリーヌが結婚して倦怠期を迎え、もし別の男性と結婚したらと考える時、その別の男性のひとりがジェシーだというのです。もし考えなかったらその結婚は幸せであり、ジェシーが下らない男でであったなら夫は素晴らしいひとであり倦怠期は克服できる。なるほど、こんな口説き方もあるんだと感心します。

 これはもう、パリジェンヌをヒッカケたアメリカ青年の行きずりの恋の物語だと思ったのですが、どうも違う。いっこうにふたりは「寝ない」のです、ただしゃべるだけ(笑。恋やセックス、お互いの生活や考え方をたわいなくしゃべるだけです。こういうのを情動言語?というのだと思うのですが、会話の中身には何ら意味が無いわけで、思いつくままのひたすらな言葉のキャッチボールです。何かを表現する、伝えるということではなく、言葉を交わすことで相手の出方をうかがっているわけです。ジェシーは「寝る」きっかけを探り、セリーヌは「口説かれる」きっかけを計っているのですね。

 セリーヌは、後に明かされますが「寝てもいい」と考えてジェシーに近づいたのですから、ふたりの関係が会話だけで終わるとは考えていません。ところが十数時間、きっかけが掴めないまま、ふたりはひたすら会話だけを続けます。夜明け前の公園で、セリーヌはこのまま(寝ないまま)別れ、再会はしないでおこうと言い出します。
 下心たっぷりの男女の出会いが、一夜異国の街を彷徨する間に、本物の恋になったのです。セリーヌは、この恋を恋のまま思い出に封じ込めるために、sexも再会をしないでおこうと言ったわけです。これは、列車でジェシーがセリーヌを口説いた文句、「未来からのタイムトラベル」そのままです。

 パリ行きの列車のホームで、結局、ふたりは半年後のこの時間に会う約束をして分かれます。旅という非日常の世界で出会ったジェシーとセリーヌは、それぞれの街で日常に戻ります。半年後、はたしてふたりは再会出来たのだろうか...、上手い幕切れです。

 この映画はヒットしたようで(Amazonのカスターレビューも66件、しかも星5つと4つ)、続編の『ビフォア・サンセット』が作られ、第3作『ビフォア・ミッドナイト』まで作られています。何故ヒットしたか?、ずばりふたりが「寝なかった」からです(笑。ヒッカケようヒッカケられようという男女が、「時代錯誤」な恋をしてしまったことが支持された要因ではないかと思います。現代ではちょっと考えられない若い男女の恋に、観客(たぶん女性)はジェシーとセリーヌに自らを重ね、戻らぬ時間を懐かしむわけです。

 この映画を支えているのが、時間的制約です。ジェシーには、セリーヌと過ごす時間が十数時間に限られていることです。この制約がふたりの恋を濃密に演出します。取り留めもない会話には、朝には恋の答えを出さなければならないという緊迫感が隠れています。

 でお薦めかというと、私のようにストーリーで映画を見る人には、面白くないと思います。イーサン・ホークとジュリー・デルピーは、お互いが惹かれ合ってゆく過程を、意味もない会話の羅列で演じたわけです。これはこれで立派と言わざるをえません。

 イーサン・ホークは、遺伝子によって適正者と不適正者に区分されSF『ダカタ』、、WWⅡの日系人排斥を描いた『ヒマラヤ杉に降る雪』(これお薦めです)、ブルックリンの悪徳警官『クロッシング』、新米刑事の1日を描いた『トレーニング デイ』と幅広い役をこなせる俳優です。ジュリー・デルピーは、クシシュトフ・キェシロフスキの「トリコロール」3部作『白の愛』に出ていました。

監督:リチャード・リンクレイター
出演:イーサン・ホーク ジュリー・デルピー

タグ:BSシネマ
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