SSブログ

kindleで読書 増田俊也 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか 4) 力道山 [日記(2014)]

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか
 やっと力道山にたどり着きました。本書のテーマである「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」の顛末が明らかになります。

 力道山は、はじめは植民地の朝鮮半島から夢を見て内地日本にやってきた素直で優しい少年だった。
だが戦争の決着を機に、日本と朝鮮の勝ち負けが逆転し、価値観の転換を余儀なくされる。そこで力道山の中で何かのスイッチが入った。差別からくる怒り、自らではどうしようもない国家という化け物に振り回され続ける怒り、その中でもがき続けた。

 キレイに書くとそうなります。国籍による差別によって西関脇以上の出世が望めず、朝鮮戦争によって故郷北朝鮮に帰国できなくなった力士・力道山は、相撲を棄てプロレスラーとなってアメリカを転戦します。そして講道館によって柔道界から閉めだされ、食うためにプロ柔道家となった木村政彦は、ハワイ、南米で異種格闘技からプロレスに転向し、力道山と出会います。

 このふたりの出会いによって「昭和の巌流島」が戦われ、木村は力道山のパンチを浴びマットに沈みます。「木村の前に木村なし、木村の後に木村なし」と謳われた最強の柔道家が、何故力道山に負けたのか?。本書の冒頭で明かされている力道山の裏切りが詳述され、著者・増田俊也の本音が明かされます。

 そもそも何故木村と力道山が戦うことになったのか?。力道山はアメリカでプロレス・ビジネスを見てこれを日本に移植し、その頂点に立とうと考えます。その第1回興行が、アメリカからシャープ兄弟を呼びよせた日米対決の14連戦です。この14連戦に力道山はタッグを組む相手に木村を選び、折からのTV中継によって日本中にプロレスブームが巻き起こります。
 この14連戦は、

【十四連戦の全成績】 
木村政彦4勝8敗2分け  力道山12勝1敗 
【タッグでのシャープ兄弟戦】  木村政彦1勝8敗  力道山10勝1敗 
どうだろう。数字をこうして並べれば、間違いなく木村が負け役をやらされていたことがわかる。

これが木村vs.力道山が生まれる背景です。

で台本がどうなっていたかというと、61分三本勝負、

1本目:力道山○
2本目:木村 ○
3本目:時間切れで無勝負 よって引き分け。

力道山はこれ念書として木村に書かせ、自分はウヤムヤにして書きません。おまけに、木村の当て身は禁止だが力道山の空手チョップは許されるという割にあわない約束までさせられます。

 そもそも格闘技日本一を決めるに、ブック(台本)のあるプロレスが使われたこと自体が不思議な話しです。木村は、力道山と引き分けに持ち込めば、前回の木村政彦1勝8敗 、力道山10勝1敗という汚名が挽回されると考えたのでしょう。
 
 そして、力道山のブック破りによって木村はマットに沈み、死に姿は全国にTV中継されます。さらに力道山は木村の念書を公にし、八百長を提案したのは木村であり、自分は真剣勝負で望んだのだと自己正当化を図ります。この時木村は37歳、以後75歳で亡くなるまでの38年間、「力道山に負けた男」として運命を負って生きたことになります。木村は短刀を懐に飲んで力道山を付け狙ったといいます。木村正彦は力道山を殺すことはせず、力道山はヤクザに刺されあっけなく命を落とします。

 木村vs.力道山の闘いは1954年、著者である増田俊也が生まれる11年も前の話です。半世紀たって、著者が木村政彦の名誉回復を図ろうと本書を執筆したのは、著者の高専柔道と木村政彦に対する思い入れです。それは、スポーツと化し本来の武道、格闘技を忘れた柔道に対するアンチテーゼであり、講道館柔道に楯突いたために葬り去られた不遇の格闘家に対する鎮魂歌でもあります。

あの試合で力道山がやったブック(台本)破りは酷いものだった。騙し討ちで鬼の木村に全国民の前で恥をかかせている。
・・・私は木村が勝ったはずだと証明するために、そのためだけにこの本を書きだしたのだ。それが、取材が進むうちに、少しずつ雲行きが怪しくなってきていた。試合映像は、それくらい木村の準備不足によるコンディションの悪さを残酷に映し出していた。せめて前の晩に酒を飲まなければ……。
スイッチさえ入れば、どの状況からでも木村政彦が勝ちを握ったと書くつもりでいた。しかし、しかしだ。それで木村は救われるのか。鬼と謳われた木村の魂は救われるのか。

 牛島、木村、多くの柔道家の事跡を掘り起こし、木村の名誉回復のために格闘した挙句、著者が見出したものは、以外にも、拓大柔道部師範として多くの弟子を育て家族に囲まれて過ごした木村の穏やかな後半生です。そして、それを「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」という問の答えとします。

 柔道も格闘技も興味はありませんが、著者の情熱と筆力で、それこそ寝技で抑えこまれ関節をねじられるようにして一気に読みました。いやぁ長かったです、面白かったです。昭和という時代のひとつの姿です。
 
木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

タグ:読書
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0