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映画 七人の侍(1954日) [日記(2014)]

七人の侍(2枚組)【期間限定プライス版】 [DVD]
 今更、説明の要が無いほど有名な映画です。さすがに世界のクロサワ、『七人の侍』は21世紀の現在でもまったく色褪せず第一級の作品だと思います。

【構図】
 改めて気づいたのですが、7人の侍のリーダー島田勘兵衛(志村喬)が6人の侍を集めるくだりが、面白いです。7人ひとりひとりの人物像がくっきりと際立って描かれ、後の展開の重要な序論になっています
 菊千代(三船敏郎)と勝四郎(木村功)の対比です。ふたりとも、勘兵衛が盗人の手から子供を取り戻した手並みに感心して師事するわけですが、勝四郎の真っ直ぐな尊敬の念に比べ、菊千代の屈折したそれでいてあふれる様な勘兵衛への興味と親近感は、菊千代という人物のその後を遺憾なく表現しています。三船敏郎という俳優もさることながら、脚本の上手さだと思います。
 剣の腕は中の下だが、苦しい時に必要な人間として五郎兵衛(稲葉義男)に見いだされる平八(千秋実)、勘兵衛から「古女房」と呼ばれる七郎次(加東大介)、頼るは己の孤剣のみと信じる剣客/久蔵(宮口精二)。それぞれが七重奏曲のパートを受け持つ楽器のような役割を担っていることがこの映画の魅力です。

【リアリズム】
 雨の中の合戦シーンなど黒澤の採ったリアリズムは高く評価されていますが、一番印象に残ったのは、野武士に家族を殺された老婆です。捕虜となった野武士を農民が竹槍で突き殺そうとします。勘兵衛たちはこれを止めに入り、画面の右端から現れた老婆が、鍬を振り上げて通り過ぎるシーンです。老婆の怒りと復讐が遺憾なく描かれています。
 wikipediaによると、この老婆を演じたのは、ロケ地近くの老人ホームの入居者トメさんだそうです。トメさんは志村喬、三船敏郎に劣らぬ存在感を発揮する「俳優」です。

【ユーモア】
 『七人の侍』のリアリズムを支えるのが、随所に見られるユーモアです。野武士と戦おうと侍を探しに積極的に関わる利吉(土屋嘉男)を最右翼とするなら、最左翼が与平(左卜全)です。左卜全が演じるわけですから、推して知るべし。与平の他、旗を作る人懐っこい平八、いつも縫い物をしている軽妙洒脱な七郎次がおり、最大のコメディアン菊千代が控えています。もっとも菊千代の放つユーモアは、「やがて悲しき」というユーモアですが。

【複眼】
 時代劇には、侍と農民という階級格差が厳然と存在しますが、この映画はその階級差を飛び越えたところで成立しています。百姓が侍を雇うという逆転があり、百姓出身の菊千代はふたつの階層を行ったり来たりしてこの「複眼」に奥行きを与えます。
 菊千代は、勘兵衛たちの表面的な百姓理解を頭から否定します。野武士から搾取される百姓の土地には、米から酒肴何でも埋まっている、そうした狡猾な彼らを頭から信じ、腹いっぱい食べることを条件に命を賭ける勘兵衛たちの人の良さを嘲笑います。菊千代は百姓たちの家から刀槍具足を徴発し、彼らが落ち武者狩りの老獪な百姓であることを証明してみせます。

百姓ってのはな、けちんぼで、ずるくて、泣き虫で、意地悪で、間抜けで、人殺しだ!
だがな、そんなケダモノつくりやがったのは、いったい誰だ?(菊千代)

 今更ですが、「名画」「傑作」です。3時間半が少しも長いと思われません。

監督:黒澤明
脚本:黒澤明 橋本忍 小国英雄
出演:志村喬 三船敏郎 加東大介 木村功 千秋実 宮口精二 稲葉義男

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さすらい日乗

ここに描かれた戦争は、戦国時代のことではなく、太平洋戦争のことだと思います。
実は、非常に意外なことに黒澤明は、戦争に行っていないのです。それは、戦前から、「航空教育資料製作所」という秘密スタジオで、円谷特撮を駆使して魚雷攻撃法のマニュアル映画を作っていた軍需企業の東宝が、黒澤を行かせないようにしたのだと思います。

ですから戦後の黒澤映画には、戦争に行かなかったことの贖罪性が強く出ているのです。「戦争に行かなくてすみません」という。
その証拠に、この映画のラストの志村喬の台詞の意味をよく考えればわかると思うのですが、いかがでしょうか。
拙書『黒澤明の十字架』に書きましたので、ご参考までに。
by さすらい日乗 (2015-09-15 07:02) 

べっちゃん

へぇそうなんですか。図書館にあるようなので、機会があれば読んでみます。「魚雷攻撃法のマニュアル映画」を作りながら、秘策を練っていたんでしょうね。
by べっちゃん (2015-09-16 08:07) 

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