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映画 地下鉄に乗って(2006日) [日記(2015)]

地下鉄(メトロ)に乗って THXスタンダード・エディション [DVD]
 浅田次郎原作の人情講談+幻想小説の映画版です。
 人情講談はいつものことで、何処が幻想かと云うと、30年前の1964年(昭和39年)にタイムスリップすることです。昭和39年というと、東京オリンピックが開催され、新幹線が開通した年です。

 小さな衣料品メーカーに勤める真次(堤真一)は、帰宅途中地下鉄の駅で死んだ筈の兄の姿を見かけ、追いかけて地上に出ます。と、そこは昭和39年の世界だった、というわけです。以後、真次は地下鉄を乗り降りすることで、過去と現在を行ったり来たり、まさにタイムトンネルです。真次が訪れる過去は、病院で死の床にある父に係わる世界であり、父と子の人情話となります。

 真次の父・佐吉 (大沢たかお)は、一代で財を築いた実業家、コングロマリット小沼産業の総帥。成功者にありがちな唯我独尊で暴君。母親は佐吉と離婚し、兄が死んだことも佐吉との諍いが原因であり、真次はこの父親と縁を切っています。

 真次のタイムリップが始まります。
・昭和39年10月5日
 死んだ兄に導かれるように地下鉄・永田町駅を出ると、そこは昭和39年の新中野・鍋屋横丁 。折しも兄が事故で亡くなった日です。真次は兄を探し当て、(叔父と偽って)事故の時間に外出しないよう申し渡します。

・昭和21年
 闇市で、真次はアムールと名乗る若者と出会います。アムールは、彼が生還した戦地、アムール川にちなんだ呼称でした。闇市で警察の街娼取り締まりに出会い、捕まった娼婦の中に会社の同僚のみち子を発見します。みち子と真次は不倫関係にありますが、何故みち子までもタイムスリップするのか? 。
    アムールは米兵から砂糖を詐取し、この犯罪に真次も荷担することで、ふたりは意気投合します。またこの犯罪で、真次はアムールの愛人・お時(常盤貴子)と知り合うことになります。

・昭和20年 地下鉄
 信次は、地下鉄車内で、満州に出征するアムールに出会います。闇市で出会う前ですから、当然アムールに真次の記憶はありません。アムールが掛けたタスキから、アムールの本名が判明します。アムールこそ、真次の父・小沼佐吉だったのです。両者を大沢たかおが演じていますから、これは父と息子の映画なんだ...。
 アムールは、戦争から無事帰ったら、結婚して3人の息子を育てる夢を語ります。長男は学者、次男は手堅い勤め人、三男は手元において親孝行をさせるという夢です。

・昭和20年 満州
 敗戦とともにソ連軍が怒濤のごとく満州に進出し、開拓民に襲いかかります。その戦場の只中に真次はタイムスリップし、関東軍に置いて行かれた開拓民を命がけで守る佐吉に出会います。そしてまたも、みち子がその場に居合わせます。

 闇市で逞しく生きるアムール、ささやかな夢を置いて出征する佐吉、開拓民を命がけで守る佐吉と、父親の過去を知ることで真次の憎しみは次第に溶け出すということになります。自分勝手で暴君、汚い事にも手を染め一代で富を築いた父にも、優しさがあり、正義感があり、勇気があるひとりの男だったのです。

・昭和39年10月5日
 みち子に誘われるように、ふたりは昭和39年の新中野に下り立ちます。今までは、真次がタイムスリップし、その時代でみち子と出会うパターンでしたが、今度はみち子が真次を誘ったのです。
 真次は、父親と諍いのすえ家を飛び出した兄と出会い、兄が母親にかけた電話から、兄と真次は異父兄弟であったことを知ります。戦争から帰った佐吉は、特攻で亡くなった身重の女性を妻とし、兄を実子として育てたことが明らかになります。
 そして、兄は交通事故で亡くなります。

 みち子は、真次を連れて一軒の酒場「アムール」を訪ねます。そこには、バーの主人・身ごもったお時がいたのです。勘の悪い観客(私のこと)は、未だ分かりませんでした。
 真次とみち子=愛人関係、 真次と佐吉=親子、佐吉とお時=愛人関係、お時とみち子=???。そこに、事故で長男を失った傷心の佐吉が現れます。佐吉はお時の大きなお腹にすり寄り、生まれてくる子は「みち子」と名付けよう、これからは女も手に職が要る、デザイナーにしようとお時に語りかけます。真次とみち子は佐吉を父親とする異母兄妹!。父と息子の話が、とんでもない方向に発展しました。

 バーを出るみち子に傘をさし掛けるお時。みち子はお時=母親に問いかけます。

おかあさんとこの人とを、秤にかけてもいいですか。私を産んでくれたおかあさんの幸せと、私の愛したこの人の幸せの、どっちかを選べって言われたら……
──まあ、ずいぶんと難しいことだわねえ
あのね、お嬢さん。親っていうのは、自分の幸せを子供に望んだりはしないものよ。そんなこと決まってるさ。好きな人を幸せにしてやりな

 みち子はお時を抱くように石段から身を投げます。お時はみち子を流産し、真次の腕の中からみち子は掻き消えます...。

 翌日出勤した真次は、社内にみち子がいた痕跡はすべて消え失せ、誰もみち子の存在を知りません。
 父と息子の人情噺かと思ったら、最後は禁断の恋の清算の物語で幕となります。
会社の社長の読んでいた『罪と罰』の表紙が大写しになりますから、実の兄を愛してしまったみち子の罪が、自らを消し去る罰を自らに課した、そういうことなのでしょうか。

 要領を得ない感想になってしまいましたが、どうもよく分からない映画です。たとえば「アムール」のシーンで、真次は唐突に「あなたの息子でよかった」と佐吉に言います。これ変ではないですか?。恋人のみち子が妹であること知って愕然としている筈の真次が、(大沢たかおの熱演があったとは云え)突然父と息子の関係を持ち出すのですから。
この映画は、小説の行間を飛ばしているような気がします。原作を読んでみようと思います。

監督:篠原哲雄
原作:浅田次郎
出演:堤真一 岡本綾 大沢たかお 常盤貴子


【追記】
 原作を読んでみました。映画は、それなりに原作を忠実になぞっています。粗筋としては逸脱はありませんが、小説の最も重要な部分、みち子による「自殺=自身抹殺」が十分に描き切れていません?。
 原作は、父と子の物語、男女の愛の物語に仮託された、人生を変える人間の意思の物語だと思われます。真次の物語をのようですが、実は、時間に逆らい自らの過去を変えるみち子の物語です(だと思います)。

 


タグ:BSシネマ
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