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浅田次郎 鉄道員(ぽっぽや) [日記(2015)]

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)
 今更ですが、浅田次郎の『鉄道員』を読みました。 直木賞受賞作の「鉄道員」他7篇を集めた短編集です。『 あとがきにかえて「奇跡の一巻」』によると、長編『蒼穹の昴』脱稿の後、直木賞に落選の失意を埋めるために、また小説家としての資質を確認するため書いた短編だというものです。

長篇小説に携ることで忘れられていたものと
いえば、短篇的な鋭利な発想である。無駄のない文章である。思想と主題の明確な収斂である。

 「鉄道員」は、死んだ子の歳を数える男に、あの世から死んだ娘が訪れるという怪異譚です。北海道のローカル線の終着駅を舞台に、実直な鉄道員の主人公が幼い娘と妻を亡くし、定年を迎えローカル線の廃線という人生の黄昏に、「奇跡」が訪れます。この手の異界の登場する小説は、地下鉄をタイムトンネルに見立て過去と現在を往復する『地下鉄に乗って(1994)』、京都太秦を舞台に、大部屋女中と大学生の戦前の恋が現代の男女に乗り移る『活動写真の女(1997)』など浅田次郎の十八番です。本書も、異界を材料に人生の哀歓をすくい取る作家の手慣れた人情小噺です。そういえば『椿山課長の七日間』『憑神』も異界もののヴァリエーションですね。

 個々の小説も面白いですが、浅田次郎ファンには『 あとがきにかえて「奇跡の一巻」』の自身による解題が興味深いです。個人的にはこれが一番面白かった。

「ラブ・レター」は、ろくでもない生活を送っていたころに身近で実際に起こった出来事を小説にした。
「角筈にて」は、私のいまわしい幼時体験を書いた。
「伽羅」は私の半生の記念である。長いことファッション業界に身を置きながら、いっこうに売れぬ小説を書き続けた。
「うらぼんえ」の冒頭の一行は、何度読み返してもまったく個人的な感情から胸が詰まる。
「ろくでなしのサンタ」には人知れぬ秘密が隠されている。
「オリヲン座からの招待状」は、最も私らしい小説かもしれない。見知らぬ外国人に小説の作風を訊ねられたなら、私はたぶん名刺がわりに、この短篇を差し出すだろう。

 「人知れぬ秘密」とは何なんでしょうね、浅田次郎は「あとがき」まで読ませます。
タグ:読書
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