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映画 鑑定士と顔のない依頼人(2013伊) [日記(2016)]

鑑定士と顔のない依頼人 スペシャル・プライス [DVD]
 原題、The Best Offer。監督は、『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ。主演が『シャイン』『英国王のスピーチ』のジェフリー・ラッシュ。面白くないわけはないです。
 一流の審美眼を持つ美術品鑑定士で競売人の愛と喪失の物語、サスペンス仕立て、です。

【登場人物】
オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)
 美術品の真贋を見分ける、有名な鑑定人で競売人。画家ビリーと組んで名品を安く落札させ高値で転売し多額の富を手にしている。その富で女性の肖像画を買い集め、自宅の隠し部屋の壁に飾ってひとり楽しむというのが生き甲斐。この「女性の肖像画」のコレクターというのがちょっと病的で女性恐怖症を想像します。美食家、狷介、当然に独身。 

ビリー(ドナルド・サザーランド)
 オールドマンに才能がないと決めつけられる二流の画家。オールドマンの殖財の相棒。オールドマンに(一流の画家になるには)「君には内なる”神秘性”が欠けている」と言われている。
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クレア(シルヴィア・フークス)
 両親を亡くし古い屋敷にひとりで暮らす27歳の女性。オールドマンに両親の遺した美術品の鑑定と競売を依頼。「広場恐怖症」のため15年間自室から一歩も出たことが無い。決して姿を現さず、オールドマンとは電話で接触をはかり、自室に閉じこもりドア越しに会話をする「顔のない依頼人」。

ロバート(ジム・スタージェス)
 オールドマンが懇意にする機械修理人。オールドマンが屋敷で見つけた歯車から自動人形(オートマタ)の復元を依頼される。

フレッド(フィリップ・ジャクソン)
 屋敷の管理人。クレアに代わって屋敷を案内する。10年勤めているが彼女の姿を見たことがない。自動人形の部品を見つけオールドマンに渡す。
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 「顔のない依頼人」に振り回される鑑定人の恋物語です。オールドマンは、この「顔のない依頼人」に次第に惹かれてゆきます。結婚も恋愛もせず肖像画の女性のみを愛してきたオールドマンが初めて愛した生身の女性だったわけです。クレアは、電話で、またはドア越しにクレアと会話するだけで、オールドマンは彼女の姿を一度も見ていません。想像力によって「顔のない」クレアを愛してしまったわけです。
 クレアとは如何なる女性か?、果たしてクレアは実在するのか?、クレアの存在という謎と緊張感がオールドマンを捉え、観客を引き付けます。
 以下ネタバレです。ミステリですから、ネタを知ってしまえば映画の面白さは半減します。
 
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【罠】
 実は、「顔のない依頼人」こそオールドマンに仕掛けられた巧妙な罠だったのです。
 クレアの姿を一目見たいと、オールドマンは彼女の姿を盗み見し、その若く美しい娘を愛するようになります。肖像画の女性以外に興味を示さなかった彼が何故恋に墜ちたのか。それはクレアが「顔のない依頼人」だったからです。オールドマンは肖像画を見てその女性を想像し恋をする?という性格です。肖像画に相当する女性が現れればオールドマンは容易に恋におちます。罠の「仕掛け人」は、声だけで姿を現さない女性を近づけ、彼の想像力を刺激しオールドマンを恋の虜にしたわけです。
 しかも、クレアの駆け引きが巧妙です。オールドマンを突き放すかと思えばその懐に飛び込み、嘆き、怒り、涙、と彼の心を翻弄します。クレアを「広場恐怖症」という神経症を患っている病人に仕立てあげ、オールドマンのか弱い女性を守りたいという心につけこんだのです。仕掛人は、オールドマンの性格を知り抜いた人物ということになります。
 さらに失踪事件まで引き起こして(実は屋根裏に隠れていた)彼の慕情を掻き立て、オールドマンを繋ぎ止めます。オールドマンには、クレアに愛されているという確信が生まれます。

 クレアだけでオールドマンの心繋ぎ止めることに不安を感じた仕掛人は、もうひとつ巧妙な罠を用意します。オートマタ、自動人形です。クレアの屋敷にオートマタの歯車をバラマキ、オールドマンの心をこの自動人形で繋ぎ止めます。オートマタこそ、オールドマンの「卒論」のテーマでした。オートマタの部品を見つけてはオールドマンに渡す管理人のフレッドも「仕掛人」のひとりだったのです。
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 オートマタの修復を手掛けるのが、若いロバート。ロバートは、オールドマンの告白を聞き、恋の手引きをします。ロバートは、オールドマンとともにクレアの姿を盗み見し、クレアに一目惚れしたと見せかけオールドマンの嫉妬を掻き立てます。ロバートもまた、「仕掛人」のひとりだったのです。オートマタはまた、この映画のテーマでもある贋作、フェイクの象徴でもあります。ここまで来れば、仕掛け人は誰か想像がつきます。 
 
 オールドマンは屋敷の前で暴漢に襲われ、これを目撃したクレアは、彼を病院に運び、門の外に出たことで「広場恐怖症」は癒されます。これも、仕掛けのひとつです。この事件の後、クレアはオールドマンの自宅でともに暮らすことになります。

 愛する女性を手に入れ、オールドマンは鑑定人、競売人を引退します。最後の競売を終えて自宅に戻ったオールドマンを待っていたものは、クレアの失踪と肖像画コレクションの喪失です。長年かかって集めた一級のコレクションが跡形もなく消えていたのです。
 収蔵庫に残されたオートマタが話しかけます、

いかなる贋作の中にも必ず本物が潜む
会えなくて寂しいよ

オールドマンのコレクションを盗むために、クレア以下の罠が仕掛けられたということです。

 種明かしが終わっても映画は続きます。オートマタの「いかなる贋作の中にも必ず本物が潜む」という言葉です。『鑑定士と...』には冒頭から贋作が登場しています。クレアこそこの恋の「贋作」です。映画のなかで、しばしば贋作、偽造、偽りについてのセリフが顔を出します。

人間の感情は芸術品と同じ 偽造できる
まるで本物に見える だが偽りだ
何事も偽装できるのだ 喜び 苦しみ 憎しみ 病気 回復 愛さえも(ビリー)

愛を偽ることは可能か?
芸術品の贋作に本物が潜むなら 偽りの愛にも真実が
愛が芸術なら(ロバート)

 クレアの愛を疑わないオールドマン(観客)にはこの言葉は届きませんが、ジュゼッペ・トルナトーレは種明かしをしていたことになります。一流の審美眼を持つ鑑定士が、皮肉にも、自らの恋で鑑定を過った、という映画です。

 終幕です。失意のオールドマンの元に手紙が届きます(痴呆が進行したのか、介護施設に入っています)。車椅子に頼っていたオールドマンはリハリビに励み、プラハに向かいます。かつてクレアが語った彼女の思い出の店「ナイト&デイ」を訪ねるためです。
 「ナイト&デイ」のテーブルについたオールドマンにウェイターは尋ねます、

おひとりですか?
連れを待っている

さぁ、「いかなる贋作の中にも必ず本物が潜む」ように、クレアは現れるのか...。映画はここで終わります。
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 映画は、作りものであり偽りであり贋作です。それを知って観客は騙されることに酔うわけです。「いかなる贋作の中にも必ず本物が潜む」、この映画の主題そのものです。お薦めの一本です。
 
【当blogのジュゼッペ・トルナトーレ】
マレーナ(2000年伊) 
ある天文学者の恋文(2016伊)

監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュ ジム・スタージェス シルヴィア・フークス ドナルド・サザーランド

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Lee

ロードショーで見ました。凝りに凝った演出でしたが結末はやっぱりという感じがなくもないかな?う~ん好みが分かれそうな映画かもしれませんね。
「ライアンの娘」を入手しました。ブログ感想はもう少しお待ちください^^;
by Lee (2016-02-11 23:59) 

べっちゃん

オールドマンは「君には内なる”神秘性”が欠けている」とビリーに言います。この”神秘性”を逆手に取って仕掛けたのが「顔のない依頼人」という復讐劇ですねぇ、上手いものです。
by べっちゃん (2016-02-12 08:55) 

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