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映画 濹東綺譚(1992日) [日記(2016)]

ぼく東綺譚 (新潮文庫)濹東綺譚墨東綺譚 [DVD]
 断腸亭主人、荷風散人、永井荷風です。

 荷風は、芸者、女給、娼婦を題材とした小説を数多く書き、私生活でも娼館、カフェー、ストリップ劇場に入り浸るなど、「風俗」を地で行くような小説家です。日記に「女好きなれど処女を犯したることなくまた道ならぬ恋をなしたる事なし」と書き、荷風先生の漁色はもっぱら玄人筋だったようです。二度の離婚の後、30代半ばからは独身を通し、理想の女性を求めてネオンの巷を徘徊するという通人、粋人です。

 『濹東綺譚』のお雪と荷風の交情を軸に、日記『断腸亭日乗』に記された荷風その人が描かれます。主人公は、小説では大江ですが映画では永井となり、随所に、文語体の日記がそのまま語りとして入ります。
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 その荷風が色街・玉の井に通いお雪と出会ったのは、昭和11年58歳の頃です。娼館の女将に「お雪のいいところは、こいう商売を苦にしていないところだ」と語らせ、お雪を慕って地方からやって来る客や、親族を説得してどうしても後妻になってくれと迫る商家の旦那などが登場します。学徒出陣する女将の息子を、今生の思い出にと身体で慰めるあたりは、まさに聖女伝説です。

 荷風は足繁くお雪の元に通います。お雪は、荷風を高名な小説家とは知らず、危ない写真を撮るカメラマンと思っていたようです。映画の中でも、お雪のヌードを撮影し、ストリップ劇場の楽屋で踊り子と一緒にカメラに収まるシーンがあります。カメラは荷風の趣味のひとつだったようです。

・・・空腹に堪えざれば直ちに銀座に赴きて夕飯を喫す。帰宅の途上氷を購い家に入るや直ちに写真現像をなす(昭和12年9月3日、半藤一利『永井荷風の昭和』から孫引き)

なんと自ら現像もしていたようです。やがて、お雪は荷風との結婚を望むようになります。結婚に縛られることを嫌う荷風は、なかなかOKしませんが、お雪の熱意にほだされ終いには承諾します。お雪を迎えにゆく約束の日、信条を通そうか、惚れたお雪を迎えに行こかと思い悩む荷風は、滑稽でもあり、いじらしくもあり、切なくもあります。お雪は荷風を信じて待ち続け、荷風は現れず、ふたりの関係は途切れてしまいます。小説『濹東綺譚』では、お雪が病気で入院してふたりの関係は終わることになっていますから、事実はどうだったんでしょう。
 女性は玄人に限ると芸者を囲い、色街に通う荷風先生にして、なお心を動かされ一編の小説を書かしめたお雪の物語です。 
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 永井荷風に馴染みがないと、退屈だと思います。なにしろ津川雅彦の荷風がスクリーンとはいえ、銀座のカフェー・タイガーで女給とたわむれ、洋食屋テキサスで晩飯を食べるわけですから、こたえられません。一部の人だけにお薦めします。当blogでいえば、小津安二郎や『麻雀放浪記』を支持してくださる「爺い」です。爺いの漁色に感動するのは爺いだけです(笑。

監督・脚本:新藤兼人
出演:津川雅彦 墨田ユキ 乙羽信子

玉の井地図.jpg 濹東綺譚関連地図

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