SSブログ

司馬遼太郎 司馬遼太郎全講演 第2巻 [日記(2016)]

司馬遼太郎全講演〈第2巻〉1984‐1989司馬遼太郎全講演〈2〉1975‐1984 (朝日文庫)
 「司馬史観」というものかどうか知りませんが、ケンブリッジ大学での講演「文学から見た日本歴史」が面白いです。日本民族の成り立ちから明治までの日本の歴史を、司馬さんなりに俯瞰し(かなり粗い)、この『全講演』のエッセンスがだいたい披露されています。その中からいくつか...。

【鉄】

 司馬さんに言わせると、「鉄」が日本の歴史に重要な役割を果たしているということです。四世紀頃、日本は朝鮮半島から鉄を輸入していたらしい。鉄鉱石から鉄を得るためには大量の燃料=樹木が必要となます。半島ではあらかた木を伐り倒し燃料得られなくなった製鉄集団は、五世紀頃、木を求めて出雲に上陸します(砂鉄)。温帯モンスーン気候の日本では、製鉄のため木を伐っても森は再生するため、日本の製鉄業は持続可能な産業であったようです。鉄は増産されて日本各地に流通し、鉄製の農具は農業生産力を飛躍的に高め、人口は増加し日本文化の基礎が出来上がります。

 また、鉄の農具よって開墾が盛んに行われため私有地が増加し、公地公民制の律令制度は崩壊します。私有地を武力によって守る武士が発生を促します。

【江戸時代】

 武士といえば300年続いた江戸時代です。江戸時代は武士の時代であるとともに、商品経済を支えた商人の時代です。庶民は経済活動のため字や算術を習い、江戸中期の識字率は70~80%だったそうです。江戸の寺子屋の繁盛は有名な話で、明治初期の学制(小学校)への移行も、江戸時代の寺子屋があったからで、明治時代は江戸が用意したと言えます。
 商品経済の隆盛は合理主義を生み、荻生徂徠、安藤昌益、山片蟠桃、富永仲基等が登場し、文化に於いても実証的な学問を生み出します。

 面白かったのは謡曲、浄瑠璃、義太夫の流行です。例えば、東北で採れる紅花は一旦大阪に運ばれ口紅や染料に加工され全国に出荷されます。山形の農民と大阪の商人が商談で意思の疎通をはかる必要が出てきます。このとき障害となるのが言葉の問題です。この障害を取り払ったのが浄瑠璃・義太夫だというのです。浄瑠璃・義太夫の言葉と言い回しを使えば、山形の農民と大阪の商人は意思の疎通をはかれたというのです。武士階級は謡曲、商人階級は浄瑠璃・義太夫を語れることが、この時代の重要な教養となります。

 見てきたような話ですが、司馬さんが語れば説得力があります。

【目次】
1984
土佐人の明晰さ
訴えるべき相手がいないままに
ロシアについて
医学の原点
孫文の日本への決別
日本の文章を作った人々
1985
松蔭の松下村塾にみる「教育とは何か」
『菜の花の沖』について
時代を超えた龍馬の魅力
小村寿太郎の悩み
1986
義経と静御前
奄美大島と日本の文化
近松門左衛門の世界
「文明の窓口」としての朝鮮
「見る」という話
1987
三河と宗教
偉大な江戸時代
東北の巨人たち
細川家と肥後もっこす
裸眼で見る「文明と文化」
言葉の文明
日本人のスピーチ
1988
横浜のダンディズム
敗者たちの戊辰戦争
日本の言語教育
大隈重信が目指した文明
医学が変えた近代日本
1989
オランダの刺激
「砂鉄のみち」と好奇心
ものを見る達人たち
戦国から幕末の「防長二州」

タグ:読書
nice!(7)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 7

コメント 1

グリーンスチール

山陰にある島根県安来市の和鋼博物館には一度音連れてみたいものですね。あと日本神話の素養がある方にも魅力的かも。
by グリーンスチール (2023-08-28 22:50) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0