SSブログ

映画 コリーニ事件(2019独) [日記 (2022)]

コリーニ.jpg コリーニ1.jpg
 2001年のコリーニ          1942年のコリーニとマイヤー
 久々に映画。ナチスの戦争犯罪を背景とした法廷サスペンスです。 

ナチスの犯罪
 2001年、高名な実業家ハンス・マイヤーがベルリンのホテルで惨殺され、イタリア人の老人ファブリツィオ・コリーニが逮捕されます。マイヤーはピストルで3発撃たれたうえ頭を潰され、コリーニの強い恨みによる犯行と考えられます。コリーニを演じるのが、往年のマカロニウェスタンのスター《フランコ・ネロ》。フランコ・ネロの沈黙の演技が、映画の見所のひとつです。
 
 弁護士になってわずか3ヶ月というカスパー・ライネン(エリアス・ムバレク) が国選弁護人としてコリーニを弁護することになります。ライネンは母親がトルコ人で、父親は2歳時に蒸発、以後マイヤーが父親代わりとなり、彼の援助で弁護士になったという過去があります。おまけにマイヤーの孫娘ヨハンナは元恋人。トルコ系の若い弁護士が、父親同然の恩人を殺した70代のイタリア人を弁護するという、なかなか複雑な設定です。
 
 コリーニは黙秘を続け殺害の動機は不明。動機に情状酌量の余地があれば減刑も期待できますが、動機が不明では謀殺罪となり最悪終身刑。沈黙するコリーニの過去を探り、マイヤーとの接点を見つけ動機を探ることが映画の主要なプロットとなります。
 ライネンが蒸発した父親の話をしたことで、コリーニが重い口を開きます。動機を語ったわけではなく、ライネンに蒸発した父親と会えと言うのです。ライネンの父親は蒸発、被害者はライネンの父親代わり、今また犯人の口から父親という言葉が飛び出します。後に、蒸発した父親が登場しライネンの弁護活動を助けますから「父親」は映画のKeyWordです。
 
 ライネンはコリーニの故郷トスカーナ地方モンテカティーニを訪ね、マイヤーとコリーニの接点が明らかになります。1944年、レジスタンスのテロで2名のドイツ兵が殺され、ドイツ軍は報復としてドイツ兵1名に付きイタリア人10名、計20名のモンテカティーニの住人が殺されます。殺されたひとりがコリーニの父親であり、虐殺を指揮したのがナチスのSS(親衛隊)将校であったマイヤーだったのです。殺人はコリーニの復讐だったわけです。面白いのはここからです。
 
ドレーアー法
 ライネンは法廷で虐殺事件を公にし、殺人は《謀殺》ではなく《故殺》であると情状酌量よる減刑を狙います。ここで被害者遺族の「公訴参加代理人」として著名な大学教授のマッティンガー(ハイナー・ラウターバッハ)が登場し、映画はライネンvs.マッティンガーとなります。

 マッティンガーは、1969年にコリーニがマイヤーを戦争犯罪で告訴し、マイヤーは「秩序違反法に関する施行法(ドレーアー法)」によって無罪となっている事実を挙げ、コリーニの犯罪は無実の人間を殺した謀殺に当たると弾劾します。ドレーアー法によると、命令に従って殺人を犯した幇助者は故殺罪であり故殺罪の時効は20年1944年のマイヤーの殺人は時効となり無罪となったわけです。
 
 ライネンはマッティンガーがドレーアー法の起草者の一人であることを突き止め、マッティンガーに迫ります。この映画のハイライトです。マイヤーが20人の住民を虐殺したことは明らかに戦争犯罪です。ところが1968年のドレーアー法の制定によって多くの戦争犯罪者が罪を逃れたわけです。戦争からの復興のためドイツはドレーアー法によって戦争犯罪を「無かったこと」にしたのです(現在の国際法では戦争犯罪)。ライネンはマッティンガーに問います「これが法治国家か?」と。
 
 『コリーニ事件』が描いたのは法と倫理の問題とともに、世代=generationの問題です。コリーニ、マイヤー、マッティンガーの戦争を知っている世代と、ライネン、ヨハンナの戦争を知らない世代です。戦争を知らない世代は、戦争を知っている世代を無条件で裁いてよいのか?、という問題です。法廷でドレーアー法制定に関わった事実を突きつけられたマッティンガーはライネンに「君は遅く生まれた恩恵を被っている」と言います。またラストで、ヨハンナはライネンに「私は祖父マイヤーと同じなのか?」と問い、ライネンは「君は君だ」と答えます。なかなか奥の深い映画です、オススメ。
 
監督:マルコ・クロイツパイントナー
出演:エリアス・ムバレク、フランコ・ネロ、ハイナー・ラウターバッハ
コリーニ事件 (創元推理文庫)

タグ:映画
nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:映画

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。