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村上 龍 半島を出よ [日記(2005)]

半島を出よ (上)

半島を出よ (上)

  • 作者: 村上 龍
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2005/03/25
  • メディア: 単行本


●ブーメランの少年
幕開けは4000人のホームレスが暮らす、マフィア系NPOの仕切る「ゲットー」から。アメリカの中東武力外の失敗によりドルが暴落し、それを引き金に円、国債、株が暴落。日本経済は破綻に追い込まれ、預金を封鎖され消費税が17.5%になった2010年の近未来の日本が明らかにされる。棄民の吹き溜まりゲットーで猛毒のムカデやヤスデを飼育するシノハラや、殺傷用のブーメランを飛ばす少年が紹介され、福岡にいるというイシハラが、謎のように紹介される。

●平壌
 金正日政治軍事大学日本語教授パク・ヨンスにより、国際社会で孤立しつつある2010年の日本が語られる。失業率は8%を越え、世界の警察を放棄したアメリカにより、日米安保体制は崩壊し、国益のために穀物価格の30%値上げを突きつけてきたアメリカに、反米愛国から憲法改正、軍備増強に走る日本の姿が語られる。
こうした国際情勢のもと、北朝鮮ピョンヤン労働党3号庁舎地下2階で、共和国エリートを前に映画が上映される。その映画はナチの特殊部隊120名がニューヨークに上陸しマンハッタンを占領するというものだった。特殊部隊は自らを反乱軍と名乗り、ヒトラーもその部隊を反乱軍であると認める。市民多数を人質に取られたアメリカ軍は手を出せない状況に陥る。ヒトラーの狙いはその状況に乗じて決死隊をワシントンに送り、アメリカ要人の暗殺を計るという計画であった。結局、決死隊の一へ兵士の恋がもとで計画は水泡に帰す。映画の最後にヒトラーが側近達に云う。面白い作戦だったが惜しかった、と。そしてヒトラーは金正日であり、ニューヨークが福岡であることが明かされる。最終的には12万の「反乱軍」が福岡に侵攻する。作戦名は「半島を出よ」。
この章で物語の道具立てが明らかにされる。


●見逃された兆候
一転、視点は内閣情報調査室の情報分析官に変わる。ここでも2010年日本の惨状が繰り返し語られる。「インフレと不況が同時に日本を襲い、不安と不満が渦を巻き、世の中は怨嗟に覆われた。・・・政府は政権基盤を守るために軍備拡張路線に転じ・・・アメリカ、欧州、中国、ロシア、韓国などから強い警戒と反発を生んでいる。預金封鎖とインフレによって生まれた、多くの経済的は敗者と、彼らを支持基盤とする政治家は、憲法改正と軍備拡張と核武装にプライドの回復と救いを見いだそうとした」。複雑な国際情勢に対応できない官僚組織は

 

●待ち受ける者たち
第1章で登場したブーメンランを飛ばす少年タテノの目線で、福岡のホームレスゲットーとその住人たちと謎の人物イシハラが紹介される。子供時代肉親の悲惨な死のショックにより、痛覚麻痺を起こしているヤマダとモリ。13歳で同級生の少女を殺しノコギリで切断したアンドウ、大手銀行為替資金部をリストラされ、イスラム武装ゲリラ訓練キャンプで経済的ゲリラの実績を挙げたタケイ。(タケイは今もゲリラとは通交があり、密輸した武器を隠匿してる)。何十種類とい
う大規模テロのプランを持つカネシロ
。テレビに自分が乗っ取られるとという妄想から、NHKに乗り込みで手製銃で殺人を犯したマツヤマ。
九州の市民詩歌文学賞の最優秀賞受賞者で、福岡ゲットーの創始者イシハラ。イシハラは「大切なのは今のこの社会の、多数派の人たちから離れて生きることだ」「テロもすばらしいし、暴力もすばらしいし、殺人だってすばらしいけど、戦争はだめだ。それは戦争が多数派のものだからだ。少数派では戦争に負ける。戦争をしたがるのは多数派しかいない。多数派は必ず少数派をいじめるし無視する。」と強烈なオーラを放つ人物として登場する。
そして、これらの人物はすべてカタカナの名前が与えられている。

●種のないパパイヤ
「半島を出よ」作戦の最終目的が、コマンドのひとりチャン・ボンスによって語られる。朝鮮半島統一の混乱を最小限にすることがそれである。統一の障害となる北朝鮮の強行派10万を作戦の要員として国外に送り出し、福岡に侵攻するであろうアメリカと中国を中心とした国連軍と対峙させることにより国際的緊張を九州に作り出そうというのが目的である。
その間隙に半島は統一され、金正日は祖国統一の英雄として引退し余生を北京で送るというシナリオが用意された。チャン・ボンスは考える。この作戦は周到に仕組まれたものではないか、東アジアの混乱を嫌う大国が台本作りに参加しているのではないか、参加していなくとも黙認しているのではないか、と。

絶対のおすすめ →☆☆☆☆☆


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