SSブログ

司馬遼太郎 歳月 (講談社文庫) ★★★☆☆ [日記(2005)]

歳月 (上)

歳月 (上)

  • 作者: 司馬 遼太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/02
  • メディア: 文庫

 元佐賀藩士、従四位参議、司法卿、江藤新平の物語。お盆休みの暇つぶしに再々読、久々に司馬遼節に浸った。
 下級佐賀藩士として時代に打って出ようとする第一部、参議として法令の整備に情熱を注ぎ、征韓論に同調して野に下るまでの第二部、不平士族による佐賀の乱の主塊に担がれ破れる第三部、とおよそ三部からなる。維新を推し進めた薩長土肥4藩の中で最も功少ない「佐賀藩士」江藤新平の栄光と挫折の物語である。佐賀藩は、鍋島閑叟という幕末で最も開明な藩主を擁したために革命に乗り遅れ、閑叟の揃えた近代兵器により幕末ぎりぎりで舞台に登場した。そのため薩長土肥の最後に名を連ね、薩長閥の後塵を拝さねばならなかった。佐賀の乱は、この薩長閥を倒し佐賀藩をして第2革命の先頭に立たしめるという江藤新平の夢として描かれる。この時代に於いては、いかに英雄といえど藩の呪縛から逃れられなかったのだろう。

 司馬遼の世界であるから、西郷、木戸、大久保をはじめ維新の英雄が目白押しに出てくる。西郷は感情の振幅が人一倍大きい人格的巨人、木戸は女性的で恨みっぽいネガティブ志向な革命家、大久保は冷徹な策謀家として描かれている。この類型的な性格付けは司馬遼の他の物語でもお馴染みのものである。が、どの物語を読んでも司馬遼の描く西郷像の焦点が合わない。「歳月」でも、西郷隆盛は度の合わない眼鏡で見ているようで、茫洋としている。木戸を描くに、木戸が枝豆を食べその殻を精緻に積み上げてゆく描写を以てする。大久保については、佐賀の乱鎮圧の陣中で書かれた日記を分析し、後生に読まれることを意識した老獪な大久保を描く。この当たりは司馬遼の面目如実、切れ味は抜群である。西郷についてはこうした説得力のある描写は見当たらない。
 征韓論に破れて下野した江藤が、郷里で担がれて佐賀の乱を起こす訳だが、起こすに至る江藤の軌跡が今一つ判然とせず説得力に欠ける。
 栄達を求めて風雲に飛び込む無名時代、参議、司法卿として法整備に取り組み、征韓論に破れて下野する中盤、郷里の不平士族に担がれ佐賀の乱を起こし、破れて大久保に刑殺される最終章、史実・挿話と虚実織り交ぜて700ページの長編を飽きさせない。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0