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佐野眞一 阿片王~満州の夜と霧~ [日記(2005)]

阿片王 満州の夜と霧

阿片王 満州の夜と霧

  • 作者: 佐野 眞一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/07/28
  • メディア: 単行本


佐野眞一 阿片王~満州の夜と霧~ 新潮社 ★★★★☆
 中国と阿片の関係は阿片戦争に遡る。阿片の蔓延と銀の流出を防ぐため清朝は自国内でケシを栽培するという苦肉策で対応した。日中戦争はこの阿片売買による莫大な利益をめぐる蒋介石と日本軍の抗争であった、というところから出発している。


 阿片売買を軍に代わって一手に仕切ったのが里見甫。「阿片王」には、女道楽とハムエッグと舶来煙草だけが趣味だった里見甫の遺児奨学義援名簿から次第に解き明かされる満州の闇の人脈から、阿片で得た利益の50%を蒋介石(国民党)に、25%を汪兆銘(南京政府=日本の傀儡政権)に、25%の80%を日本軍部に、残りの20%を自身の経費とするという常識では考えられない里見機関の姿、里見甫を取り巻く謎の女、それも男装の麗人、とまことに多彩である。
この種の本ではお馴染みの児玉誉士夫、笹川良一を始め、最早歴史上の人物である甘粕正彦、東条英機、岸信介、佐藤栄作、大平正芳など政治家、果ては今西錦司、江上波夫、岩村忍などの学者まで登場し、「満州」が戦後日本に及ぼした影響の大きさと轍を一にしている。これは、草柳大蔵の「満鉄調査部」など満州ものの何時も姿であはる。
 満州という文字には、五族共和、王道楽土という語感がついてまわる。いずれも死語だろう。戦後の日本の高度成長は潰えた満州建国の夢の再現であるという。冷暖房完備の特急「あじあ号」が大連ハルビン間を時速130kmで驀進し、首都新京には上下水道が完備され、東洋で初めての水洗トイレが敷設され、住宅にはセントラルヒーティングが施されていた。満鉄本社では、600台のタイプライターが唸りをあげ、電話はダイヤル即時通話、農産物の集荷量、運送距離、運賃はIBMのパンチカードで処理されていたという。

特急あじあ号
満州国建国のプランナーである石原莞爾は、満州国の植民地化に最後まで抵抗し、満州国の日本からの独立を主張して軍部の不興を買い左遷された。「もし、石原の主張通りことが進めば、石原はいわば日本のジョージ・ワシントンとなり、東アジアの一画に、日・漢・朝・蒙・満の五族を中心とした東アジア諸民族が居住するアメリカ合衆国なみの他民族国家が誕生していた可能性もある。」
 結局、満州とはその歴史もそこに暮らした人も、日本の負の双生児だったのではないか。満州を描くことにより、戦後の日本と「うすっぺら」な現在をあぶり出そういう目論見は目新しいものではない。
 ともあれ、夏休みの緑陰図書として打ってつけ。しばし日常を忘れ壮大な満州の原野に遊ぶことができる。
【参考】
石原莞爾 最終戦争論・戦争史大観
http://www.aozora.gr.jp/cards/000230/files/1154_3530.html

 

★★★★★=絶対のおすすめ。
★★★★☆=おすすめ。
★★★☆☆=読んで損は無い。
★★☆☆☆=好みに合わない。
★☆☆☆☆=(私にとっては)理解不能。


タグ:満州
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